今森光彦 写真&ペーパーカット展 楽園の昆虫たち

壁面に飾られた写真には、昆虫が遊ぶ、色鮮やかな自然の景色。その前には、細密に作られた切り紙の昆虫が展示されています。はさみ1本で切り出されたという切り紙の昆虫は、色、かたち、模様が細部まで表現され、透明な翅はクリアファイルで作られたそう。白を基調としたノエビア銀座ギャラリーには、展覧会タイトルのとおり、楽園の昆虫たちが息づいていました。
<会期:2017年6月12日(月)~9月1日(金)>

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里山をテーマとした作品で知られる今森光彦は、写真家とペーパーカット作家というふたつの顔を持っています。写真家としての今森は、琵琶湖を望む田園にアトリエを構え、琵琶湖周辺の里山を30年以上撮り続けながら、アトリエの周りに木を植え、雑木林や庭を作りました。「オーレリアン(蝶を愛する人)の庭」と名付けられた庭は、生き物とともに暮らすために作られた、今森だけの里山。雑木林の落ち葉の陰で冬を越した昆虫が、新緑の季節の訪れとともに活動をはじめます。今森は、春に蝶が集まる花が咲くように、低木は冬の間に剪定し、昆虫たちが冬を越しやすいように、隠れ家となる落ち葉を地面に残すなど、昆虫が暮らしやすい工夫をこらしているのです。

「昆虫は、私にとって被写体である以前に、常に敬意を払うべき生命」という今森は、日本だけでなく、熱帯雨林や砂漠まで世界各地で昆虫を撮影し、昆虫の生命の輝きを伝えています。そして、昆虫は、切り紙作品のモチーフでもあり、自然の中で「美しい」と感じたその感動を「紙」と「はさみ」で表現しています。細部まで表現された切り紙の昆虫は、今にも動き出しそうです。

ノエビア銀座ギャラリーには、美しい自然環境の中で生命を育む昆虫の「写真」と「切り紙作品」が合わせて展示されています。今森の琵琶湖の田園近くで過ごした幼少期や、写真家として世界各国を訪れ、多くの“本物”を見てきた経験がいかされた作品のかずかず。身近な生命である昆虫を通して、地球という星の豊かさを伝える今森のメッセージが感じられます。

展覧会のホームページはこちらから
ノエビア銀座ギャラリー

テーマ:美術館・博物館 展示めぐり。 - ジャンル:学問・文化・芸術

ブリューゲル「バベルの塔」展

かつて人類は同じ言葉を話し、一致団結して天まで届く塔を作ろうとした。神の領域を侵そうとするその野心は神の怒りに触れ、神は、人々の言葉をバラバラにして意思の疎通をできなくし、塔の建築を阻止したー。人間の思い上がりを戒めるとともに、さまざまな言語がなぜ存在するのかも示す、旧約聖書「バベルの塔」の逸話です。

バベルの塔を描いた絵画は数多く存在しますが、ピーテル・ブリューゲル1世(1526/30~69)の「バベルの塔」(1568)は、壮大かつ細密。ロックアルバムのジャケットにしたい程のスタイリッシュさが心をとらえます。この「バベルの塔」を中心に、16世紀ネーデルラント絵画約90点を、東京都美術館で見ることができます。
<会期:2017年4月18日(火)~7月2日(日)>

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「バベルの塔」の第一印象は「想像より小さい」ということ。59.9×74.6㎝の画面いっぱいに、建設中の塔が雲を突き抜けてそびえています。上部のれんがは赤いものの、下部のれんがは白く色あせ、建設が始まってからの膨大な年月が感じられます。目をこらすと、塔の建設に勤しむ無数の人々が蟻のように描きこまれ、一説には、その数1400人とも。

塔の左に見える赤と白のラインは、赤はれんがを、白はしっくいを滑車で引き上げた跡。しっくいをかぶって、真っ白になった人も働いています。クレーンなどの重機は当時使われていた機械が正確に描かれているとのことで、ブリューゲルの観察の賜物と思われます。

塔の右は海に面していて、左には田園風景が広がっています。水平線までの遠景が描かれており、壮大さを感じさせる一因に。会場には、作品を3倍に拡大した複製画も展示されていますが、まったく描写が崩れていません。超絶技巧に脱帽します。

もう一人、ネーデルラント絵画の巨匠とされるのが、ヒエロニムス・ボス(1450~1516)。ブリューゲルの現存する油彩作品は40点ほどといわれますが、ボスはわずか25点。そのうちの2点が展示されています。

娼館の前を通り過ぎる旅人を描いた「放浪者」(1500頃)。後ろ髪ひかれるようにも見える旅人は、猫の毛皮とスプーンを背負い、なぜか、ブーツとスリッパを片方づつはいています。常に誘惑との選択をせまられる人生の寓意とのことですが、奇妙な絵です。

キリストを背負って川を渡る聖人を描いた「聖クリストフォロス」(1500頃)も、花瓶の中の小人や吊るされたクマ、廃墟のモンスターなど、不思議なモチーフが満載。ネーデルラントの奇想の画家との出会いも楽しい展覧会です。

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展覧会のホームページはこちらから
東京都美術館

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大エルミタージュ美術館展

帝政ロシアの都、サンクトペテルブルクにあるエルミタージュ美術館は、約310万点の美術品を所蔵し、絵画作品だけでも17000点に及ぶ世界有数の美術館。1764年にエカテリーナ2世が取得した317点の絵画が基礎となっており、当時、鑑賞できるのは親しい人に限られていたとか。「エルミタージュ」が、フランス語で「隠れ家」という意味であることもうなずけますね。

今回、森アーツセンターギャラリーで開催されている展覧会は、特に充実しているといわれる、16~18世紀のルネサンス、バロック、ロココ期に活躍した「オールドマスター」と呼ばれる巨匠たちの作品がテーマとなっています。会場入り口に展示されているエカテリーナ2世の肖像画に迎えられ、西洋絵画の世界を旅してみましょう。
<会期:2017年3月18日(土)~6月18日(日)>

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展示会場は、イタリア、オランダ、スペイン、と国別に構成されています。イタリアは、ティツィアーノ(1488~1576)に代表される、白くなめらかな肌を持つふくよかで気品ある女性像や、ヴィーナスや聖母子など、神話や宗教画が多い印象。

オランダは、市民の肖像画や風景画、静物画など現実の世界をモチーフとした作品が。ヤン・ダーフィッツゾーン・デ・へーム(1606~1684)「果物と花」(1655)には、みずみずしい果物と花だけでなく、しおれたバラの花や蛇や昆虫なども描かれ、“はかない生”という寓意も感じられるような。

フランドルは、ダーフィット・テニールス(2世)(1610~1690)「厨房」(1646)が印象的。厨房にあふれるさまざまな種類の鳥や魚に、図鑑的な面白さが感じられます。図鑑的といえば、フランス・スネイデルス(1579~1657)「鳥のコンサート」(1630~1640年代)も譜面を広げたふくろうを筆頭に、孔雀、オウム、鷲、コウモリ、白鳥やさまざまな小鳥たちが見事に描きわけられています。静物描写に才能を発揮した画家なのだそうです。

スペインの宗教画は、聖書の話を現実のエピソードとして理解したとのことで、ムリーリョ(1617~1682)「受胎告知」(1660)のマリアは美少女のよう。そしてフランスでは、木々の下に集い語らう男女を描いた、ニコラ・ランクレ(1690~1743)の優雅な雅宴画や、廃墟の画家ユベール・ロベール(1733~1808)の作品が堪能できます。

最後のセクション、ドイツ・イギリスでは、メインビジュアルになっているクラーナハ(1472~1553)「林檎の木の下の聖母子」(1530)をぜひ。細く切れ長の目ととがった顎が特長的なクラーナハの女性像そのもののマリア。そして、クラーナハの描くヴィーナスと同じ透明なベールが、頭と首にかけられていることにも注目です。

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充実の作品群は85点。どんな旅になるでしょうか。

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クラーナハ展500年後の誘惑

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森アーツセンターギャラリー

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シンプルの正体 ディック・ブルーナのデザイン展

誰もが知っている「ミッフィー(うさこちゃん)」シリーズを手がけた絵本作家、ディック・ブルーナ(1927~2017)。オランダ・ユトレヒト生まれのブルーナは、グラフィックデザイナーとしても活躍していました。シンプルでありながら、あたたかく、ユーモアのある作品のかずかずを、松屋銀座で見ることができます。
<会期:2017年4月19日(水)~5月8日(月)>

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ブルーナの家は代々、出版社を経営しており、ブルーナは1951年、父親の会社でデザイナーとして働きはじめます。初期のブルーナの仕事で忘れてはならないのは、ブルーナ社が1955年から発売した「ブラック・ベア」シリーズと呼ばれるペーパーバックの表紙デザイン。推理小説を中心としたこのペーパーバックの表紙デザインを、約20年間で2000冊以上も手がけています。

「ブラック・ベア」シリーズを宣伝するため、駅や書店に貼られたポスターも、ブルーナの手によるもの。1956年から1971年まで制作されたポスターには、愛らしい読書好きの熊がキャラクターとして登場します。目が赤いのは読書をしすぎたから、というのもかわいいですね。

雨の日も雪の日も、どんな天気でもブラック・ベアを読む熊。気持ちよく寝ころんで読む熊。窓越しに見える、読書する熊。人を振り向かせるアテンションがありながら、親しみやすく人間味にあふれるポスターは、今見てもとても魅力的です。

2017年4月、「クマくんが死んだ」というブルーナの未発表絵本が出版されました。ブラック・ベアのポスターに登場する熊の絵を使用し、読書が好きだったクマの死を悼むという内容です。2011年に制作されたものの、死後に出版されるのがふさわしいと見送られたといいます。2017年2月のブルーナの死後に出版されることになった、この悲しみの絵本は、関係者だけに贈られ市販の予定はないとのことです。

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松屋銀座

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シャセリオー展

シャセリオー(1819~1856)とは耳慣れない画家ですが、展覧会のメインビジュアル「カバリュス嬢の肖像」(1848)には、ひとめで心惹かれる魅力があります。金髪でばら色の頬を持つふくよかな女性像とは異なり、青白くも見える透明感のある肌と澄んだ瞳、どこか憂いのある知的な印象が漂います。真珠色のドレスと水仙の髪飾りが美しさを引きたてて。

カリブ海のイスパニョーラ島に生まれたシャセリオーは、11歳で新古典主義の巨匠アングル(1780~1867)に入門を許され、16歳でサロンに入選。アングルをして「この子はやがて絵画界のナポレオンになる」と言わしめたとか。日本で初めてとなる本格的な回顧展が、国立西洋美術館で開催されています。
<会期:2017年2月28日(火)~5月28日(日)>

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20代に入ったシャセリオーは、ロマン主義の芸術家との交流を深め、アングルの古典主義から離れて、独自の作品世界を作り上げていったといいます。月桂樹に変身していくダフネと、ダフネにすがって嘆くアポロンを描いた「アポロンとダフネ」(1845)。叙情的な世界が、色彩豊かに描かれています。モロー(1826~1898)の「アポロンとダフネ」もいっしょに展示されていますが、構図が反転されてはいるものの、シャセリオーの影響が明らかです。モローは、シャセリオーが手がけた会計監査院の壁画に感銘を受け、師として慕ったのだそう。

水浴するニンフのかたちをとりながら、文豪ヴィクトル・ユーゴーをも魅了したという女優アリス・オジーをモデルに描かれた裸婦像「泉のほとりで眠るニンフ」(1850)。下に敷かれたピンクのドレス、腋にうっすらと見てとれるヘア。オジーと恋愛関係にあったというシャセリオーの感情が反映されているかのような2mの大作です。

1846年のアルジェリアへの旅も、シャセリオーに影響を与えました。「コンスタンティーヌのユダヤの娘」(1846~1856)には、異国の衣装と宝飾品を身に着けた、黒い眉と瞳の女性が描かれ、こちらを見すえた強い視線が印象的です。

37歳で世を去ってしまいますが、モローはシャセリオーの死に大きな打撃を受け、自宅に引きこもったといい、後年、シャセリオーの思い出にささげるオマージュとして「若者と死」(1881)を描いています。壁画家としての道を継承したというシャヴァンヌ(1824~1898)の作品も見ることができます。

19世紀前半のフランス絵画において、アングルやドラクロワ(1798~1863)に次ぐ重要な画家として位置づけられているといういうシャセリオー。知らなかった魅力が堪能できます。

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マティスとルオー展
シャヴァンヌ展

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国立西洋美術館

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