ブリューゲル「バベルの塔」展

かつて人類は同じ言葉を話し、一致団結して天まで届く塔を作ろうとした。神の領域を侵そうとするその野心は神の怒りに触れ、神は、人々の言葉をバラバラにして意思の疎通をできなくし、塔の建築を阻止したー。人間の思い上がりを戒めるとともに、さまざまな言語がなぜ存在するのかも示す、旧約聖書「バベルの塔」の逸話です。

バベルの塔を描いた絵画は数多く存在しますが、ピーテル・ブリューゲル1世(1526/30~69)の「バベルの塔」(1568)は、壮大かつ細密。ロックアルバムのジャケットにしたい程のスタイリッシュさが心をとらえます。この「バベルの塔」を中心に、16世紀ネーデルラント絵画約90点を、東京都美術館で見ることができます。
<会期:2017年4月18日(火)~7月2日(日)>

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「バベルの塔」の第一印象は「想像より小さい」ということ。59.9×74.6㎝の画面いっぱいに、建設中の塔が雲を突き抜けてそびえています。上部のれんがは赤いものの、下部のれんがは白く色あせ、建設が始まってからの膨大な年月が感じられます。目をこらすと、塔の建設に勤しむ無数の人々が蟻のように描きこまれ、一説には、その数1400人とも。

塔の左に見える赤と白のラインは、赤はれんがを、白はしっくいを滑車で引き上げた跡。しっくいをかぶって、真っ白になった人も働いています。クレーンなどの重機は当時使われていた機械が正確に描かれているとのことで、ブリューゲルの観察の賜物と思われます。

塔の右は海に面していて、左には田園風景が広がっています。水平線までの遠景が描かれており、壮大さを感じさせる一因に。会場には、作品を3倍に拡大した複製画も展示されていますが、まったく描写が崩れていません。超絶技巧に脱帽します。

もう一人、ネーデルラント絵画の巨匠とされるのが、ヒエロニムス・ボス(1450~1516)。ブリューゲルの現存する油彩作品は40点ほどといわれますが、ボスはわずか25点。そのうちの2点が展示されています。

娼館の前を通り過ぎる旅人を描いた「放浪者」(1500頃)。後ろ髪ひかれるようにも見える旅人は、猫の毛皮とスプーンを背負い、なぜか、ブーツとスリッパを片方づつはいています。常に誘惑との選択をせまられる人生の寓意とのことですが、奇妙な絵です。

キリストを背負って川を渡る聖人を描いた「聖クリストフォロス」(1500頃)も、花瓶の中の小人や吊るされたクマ、廃墟のモンスターなど、不思議なモチーフが満載。ネーデルラントの奇想の画家との出会いも楽しい展覧会です。

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東京都美術館

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大エルミタージュ美術館展

帝政ロシアの都、サンクトペテルブルクにあるエルミタージュ美術館は、約310万点の美術品を所蔵し、絵画作品だけでも17000点に及ぶ世界有数の美術館。1764年にエカテリーナ2世が取得した317点の絵画が基礎となっており、当時、鑑賞できるのは親しい人に限られていたとか。「エルミタージュ」が、フランス語で「隠れ家」という意味であることもうなずけますね。

今回、森アーツセンターギャラリーで開催されている展覧会は、特に充実しているといわれる、16~18世紀のルネサンス、バロック、ロココ期に活躍した「オールドマスター」と呼ばれる巨匠たちの作品がテーマとなっています。会場入り口に展示されているエカテリーナ2世の肖像画に迎えられ、西洋絵画の世界を旅してみましょう。
<会期:2017年3月18日(土)~6月18日(日)>

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展示会場は、イタリア、オランダ、スペイン、と国別に構成されています。イタリアは、ティツィアーノ(1488~1576)に代表される、白くなめらかな肌を持つふくよかで気品ある女性像や、ヴィーナスや聖母子など、神話や宗教画が多い印象。

オランダは、市民の肖像画や風景画、静物画など現実の世界をモチーフとした作品が。ヤン・ダーフィッツゾーン・デ・へーム(1606~1684)「果物と花」(1655)には、みずみずしい果物と花だけでなく、しおれたバラの花や蛇や昆虫なども描かれ、“はかない生”という寓意も感じられるような。

フランドルは、ダーフィット・テニールス(2世)(1610~1690)「厨房」(1646)が印象的。厨房にあふれるさまざまな種類の鳥や魚に、図鑑的な面白さが感じられます。図鑑的といえば、フランス・スネイデルス(1579~1657)「鳥のコンサート」(1630~1640年代)も譜面を広げたふくろうを筆頭に、孔雀、オウム、鷲、コウモリ、白鳥やさまざまな小鳥たちが見事に描きわけられています。静物描写に才能を発揮した画家なのだそうです。

スペインの宗教画は、聖書の話を現実のエピソードとして理解したとのことで、ムリーリョ(1617~1682)「受胎告知」(1660)のマリアは美少女のよう。そしてフランスでは、木々の下に集い語らう男女を描いた、ニコラ・ランクレ(1690~1743)の優雅な雅宴画や、廃墟の画家ユベール・ロベール(1733~1808)の作品が堪能できます。

最後のセクション、ドイツ・イギリスでは、メインビジュアルになっているクラーナハ(1472~1553)「林檎の木の下の聖母子」(1530)をぜひ。細く切れ長の目ととがった顎が特長的なクラーナハの女性像そのもののマリア。そして、クラーナハの描くヴィーナスと同じ透明なベールが、頭と首にかけられていることにも注目です。

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充実の作品群は85点。どんな旅になるでしょうか。

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森アーツセンターギャラリー

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シャセリオー展

シャセリオー(1819~1856)とは耳慣れない画家ですが、展覧会のメインビジュアル「カバリュス嬢の肖像」(1848)には、ひとめで心惹かれる魅力があります。金髪でばら色の頬を持つふくよかな女性像とは異なり、青白くも見える透明感のある肌と澄んだ瞳、どこか憂いのある知的な印象が漂います。真珠色のドレスと水仙の髪飾りが美しさを引きたてて。

カリブ海のイスパニョーラ島に生まれたシャセリオーは、11歳で新古典主義の巨匠アングル(1780~1867)に入門を許され、16歳でサロンに入選。アングルをして「この子はやがて絵画界のナポレオンになる」と言わしめたとか。日本で初めてとなる本格的な回顧展が、国立西洋美術館で開催されています。
<会期:2017年2月28日(火)~5月28日(日)>

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20代に入ったシャセリオーは、ロマン主義の芸術家との交流を深め、アングルの古典主義から離れて、独自の作品世界を作り上げていったといいます。月桂樹に変身していくダフネと、ダフネにすがって嘆くアポロンを描いた「アポロンとダフネ」(1845)。叙情的な世界が、色彩豊かに描かれています。モロー(1826~1898)の「アポロンとダフネ」もいっしょに展示されていますが、構図が反転されてはいるものの、シャセリオーの影響が明らかです。モローは、シャセリオーが手がけた会計監査院の壁画に感銘を受け、師として慕ったのだそう。

水浴するニンフのかたちをとりながら、文豪ヴィクトル・ユーゴーをも魅了したという女優アリス・オジーをモデルに描かれた裸婦像「泉のほとりで眠るニンフ」(1850)。下に敷かれたピンクのドレス、腋にうっすらと見てとれるヘア。オジーと恋愛関係にあったというシャセリオーの感情が反映されているかのような2mの大作です。

1846年のアルジェリアへの旅も、シャセリオーに影響を与えました。「コンスタンティーヌのユダヤの娘」(1846~1856)には、異国の衣装と宝飾品を身に着けた、黒い眉と瞳の女性が描かれ、こちらを見すえた強い視線が印象的です。

37歳で世を去ってしまいますが、モローはシャセリオーの死に大きな打撃を受け、自宅に引きこもったといい、後年、シャセリオーの思い出にささげるオマージュとして「若者と死」(1881)を描いています。壁画家としての道を継承したというシャヴァンヌ(1824~1898)の作品も見ることができます。

19世紀前半のフランス絵画において、アングルやドラクロワ(1798~1863)に次ぐ重要な画家として位置づけられているといういうシャセリオー。知らなかった魅力が堪能できます。

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シャヴァンヌ展

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国立西洋美術館

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ミュシャ展

1860年、オーストリア領モラヴィア(現チェコ東部)に生まれたミュシャ(1860~1939)は、34歳のとき、女優サラ・ベルナールの舞台「ジスモンダ」のポスターが大評判となり、時代の寵児として活躍します。私たちがミュシャときいて思い浮かべるのも、流れるような長い髪をなびかせ、花とともにほほえむ、流麗な女性のポスターなのではないでしょうか。

アール・ヌーヴォーの代名詞ともなっているミュシャが、歴史画の大作を遺しているとは、まったく知りませんでした。スラヴ民族の神話や歴史が壮大なスケールで描かれた「スラヴ叙事詩」は、縦6m横8mにも及ぶ巨大作品、20点の連作。チェコ国外では初公開となる全作20点を国立新美術館で見ることができます。
<会期:2017年3月8日(水)~6月5日(月)>

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フランスで名声を手にしたミュシャは、1910年、50歳のときチェコに戻り、スラヴ叙事詩の制作を開始します。1900年のパリ万博の仕事のために取材したミュシャは、スラヴ民族の貧窮を目にし、チェコ国民やスラヴの連帯感のために、スラヴ叙事詩を構想したといいます。

圧倒されるのは、まず、見上げるような作品の大きさ。巨大なキャンバスは、まるで演劇の舞台のよう。民族の荘厳なドラマが今も演じられているかのようです。しかも細部まで緻密に描きこまれています。

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スラヴ叙事詩には、あるひとつの場面ではなく、異なる時空間が重なって描かれているそうです。下の「スラヴ民族の賛歌」(1926)では、右下の青はスラヴの神話時代、上部の赤はスラヴの英雄が並ぶ中世、手前の黒い影が抑圧された時代、中央には民族衣装で花冠を運ぶ自由と団結を謳歌する人々、そして、新生チェコを象徴する大きく両手を広げた巨大な青年が。

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また、多数の作品で、画面のどこかにこちらに視線を向ける人物が存在します。展覧会のメインビジュアル「原故郷のスラヴ民族」(1912)で、輝く星空の下、怯えた表情を向けるのは、異民族から身を隠すスラヴ民族の祖先。目が合うと、たちまち絵画世界の中に引き込まれます。

ハープを奏でる少女は、ミュシャの娘がモデル。ミュシャは制作時に写真を活用し、家族や近所の人たちにポーズをとってもらって撮影し、組み合わせて構成していたそうです。

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シリーズ制作中の1918年にチェコスロヴァキア共和国が誕生。独立を未来の夢として描きはじめたはずが、現実の方が先に進んでしまいます。1926年に完成をみたものの古臭いとされ、行き場を失い、地方の古城でひっそりと展示されていたとか。

1939年、ドイツ軍がチェコに侵攻し、逮捕されたミュシャは釈放されるも、肺炎の悪化により死去してしまいます。ミュシャ魂の大作20点を眼前にできる幸せに満たされる展示です。

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国立新美術館

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これぞ暁斎!世界が認めたその画力

伊藤若冲(1716~1800)、曾我蕭白(1730~1781)など江戸時代の絵師が注目されていますが、幕末から明治に活躍した河鍋暁斎(1831~1889)の経歴はユニーク。6歳から2年ほど歌川国芳(1798~1861)のもとで浮世絵を学び、その後、狩野派に師事して伝統的な日本画を学びます。通常は何十年もかかる修業を19歳で終え、さらにあらゆる流派を研究。仏画から戯画までさまざまな画題を、さまざまな技法で描き上げ、ひとりの絵師の作品とは思えないほど多彩です。画鬼とも呼ばれた暁斎の画力を、Bunkamuraザ・ミュージアムで体感することができます。
<会期:2017年2月23日(木)~4月16日(日)>

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第1章が「鴉」だけでまとめられていたことも驚きです。明治14年(1881)に「枯木寒鴉図」が第二回内国勧業博覧会で妙技二等賞牌を得、100円という高額で買い上げられたとか。以降、暁斎は多数の鴉図を描き、鴉は暁斎のシンボルとなったそうです。枯木に、柿の枝に、梅に、柳に、と描きまくっています。

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擬人化された動物やかぼちゃなど、あらゆるものに生命を吹き込むユーモラスな魅力も見逃せません。リアルな象や虎なども展示されていますが、「動物の曲芸」(1871~89)では、綱渡りをするコウモリや、ブランコにのるモグラをはじめ、猫もネズミも曲芸を披露しています。「家保千家の戯 天王祭/ろくろ首」(1864)は、かぼちゃたちが花を神輿に見立てて担ぎ、つるから伸びた実がろくろ首に。

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メインビジュアルになっている「地獄太夫と一休」(1871~89)も逸品です。地獄模様の打ちかけをまとった遊女は、自分は地獄にいくしかないと思っていたとか。遊女の横には、三味線をひく骸骨と、その頭に乗って踊る一休。足元の骸骨も踊り狂っています。地獄太夫は一休によって悟りを得たといいますから、踊る一休や骸骨は「死は怖くない」と、陽気にメッセージを送っているのかも。

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他にも、妻の亡骸の写生から制作しただけあって、ゾクリとするリアリティがある「幽霊図」(1868~70)や、丹念に仕上げられた「龍頭観音」(1886)など、本当に多彩な作品がそろっています。

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展示作品はすべて、ロンドンの画商、イスラエル・ゴールドマン氏のコレクション。伊藤若冲のコレクションで知られるジョー・プライス氏のような存在ですね。国内ではなかなか出会えない作品を堪能できるチャンスです。

※写真は主催者の許可を得て撮影しています。

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Bunkamuraザ・ミュージアム

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