クリーブランド美術館展―名画でたどる日本の美

ボストン美術館、シアトル美術館など、アメリカには日本美術の一大コレクションを有する美術館が存在します。クリーブランド美術館もそのひとつで、連合国軍総司令部(GHQ)の美術顧問であった東洋美術研究家のシャーマン・リー(1918~2008)が、1958年より館長を務め、彼の体系的な日本美術の収集がコレクションの土台となったそうです。

同館のコレクションから、平安から明治に至る日本絵画が里帰りし、東京国立博物館で展示されています。
<会期:2014年1月15日~2月23日>

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戦後混乱期の日本から、国宝級の美術品のかずかずが国外へと流出してしまったのは、残念なことではありますが、作品はどれも保存状態が良く、現代の私たちが鑑賞できるのも、流出によって保護されていたからといえるのかもしれません。展覧会は、神・仏・人、花鳥風月、山水、物語世界のテーマに沿って展示されています。

神・仏・人からは、「二河白道図」(鎌倉時代・13~14世紀)。絵の上半分は阿弥陀が待つ極楽浄土、下半分は娑婆が描かれています。その間をさえぎる水の河(欲)と火の河(怒り・憎しみ)を越えるため、白く細い道を渡る僧侶の姿が。極楽浄土へ行くためには、欲望や憎しみを振り切って、阿弥陀を信じる清らかな心が大切であることを教えているとか。シンプルでわかりやすく、思わず僧侶を応援したくなりますね。市井の人々も描かれており、山本梅逸(1783~1856)「群舞図」(江戸時代・19世紀)は、宴で舞う人々の姿が障子越しの影で表現され、デザイン性の高い作品です。

花鳥風月からは、雪村周継(1504頃~不詳)「龍虎図屏風」(室町時代・16世紀)。雲をよぶ龍と風をおこす虎が描かれていますが、両目を見開き風に舞う龍も、両足をそろえ首をかしげる猫のような虎も、とてもユーモラス。蟻とも人間ともつかない擬人化された虫が、笛や太鼓で囃しながら南瓜をひく「南瓜図」(室町時代・15世紀)も、おおらかで楽しく鑑賞できます。

山水に展示されている「蘭亭曲水図」(江戸時代・1777)は、奇想の画家として知られる曽我蕭白(1730~1781)の違った面がうかがえます。物語世界では、渡辺始興(1683~1755)「燕子花図屏風」(江戸時代・18世紀)。尾形光琳(1658~1716)を慕ったとのことですが、弟風の作品でした。

本展は、「日本美術の祭典」として、東京国立博物館、東京都美術館で開催されている3つの展覧会のうちのひとつです。「人間国宝展」「世紀の日本画」も次の機会に記します。

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東京国立博物館

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光のある場所―コレクションにみる近現代美術の現実感

神奈川県立近代美術館の鎌倉館は、1951年、日本初の公立近代美術館として開館し、近代の美術作品を美術史上に位置づけるうえで、重要な役割を果たしてきました。美術館の設計は、ル・コルビュジエに師事した坂倉準三(1901~1969)によるもので、日本のモダニズム建築を代表する建物とされています。土地の貸借契約が2016年3月31日で切れることから、同日をもって閉館の見通しとのことですが、歴史的建造物が維持されることを願ってやみません。
同館の貴重なコレクションを、「光の現れ」に焦点をあてて紹介する展覧会が開催されています。
<会期:2013年12月14日~2014年3月23日>

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看板に使用されているのは、岸田劉生(1891~1929)の「初夏の麦畑と石垣」(1920)。光のあたった石垣の白い色と木の影によって、画面左から差し込む初夏の光が感じられます。1800年代に描かれた他の作家の作品群が、全体に茶色を帯び、外光をあまり感じないのとは対照的です。

佐伯祐三(1898~1928)の「自画像」(1923頃)は、頭部の影と顔のハイライトによって、上部からあたる強めの光が感じられ、人物に意志と力強さを与えています。吉原治良(1905~1972)の「帆柱」(1931)は、帆柱と縄、帆布が描かれていますが、大きく折りたたまれた布のうねりが光と影とで表現され、まるで抽象絵画のような味わいです。

また、木版画を、白と黒の明暗表現としてとらえれば、「光の現れ」のテーマに沿うのでしょうか。谷中安規(1897~1946)の白と黒の面で構成された「少年画集」(1932)は、祭り、運動会、水あそび、盆おどりなどを描いた連作。その幻想的な雰囲気は、幻灯を見ているかのような気持ちにさせてくれます。

明治から現代までの作品が順を追って展示されていますので、変遷をとらえるにも最適な展覧会です。

展覧会のホームページはこちらから
神奈川県立近代美術館


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メイド・イン・ジャパン 南部鉄器

看板に使用されている、色鮮やかなピンクのティーポットを見て、南部鉄器のイメージががらりと変わりました。フランスやベルギーのカフェやパティスリーでは、カラフルな南部鉄器のティーポットでお茶をいれているそうです。伝統から現代まで、南部鉄器の400年の歴史をたどる展覧会が、パナソニック汐留ミュージアムで開催されています。
<会期:2014年1月11日~3月23日>

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江戸時代、南部藩は、盛岡城築城とともに文化振興にも力を入れ、鋳物師や釜師を京都などから招き、仏具や茶の湯釜をつくらせたのが、南部鉄器のはじまりとか。日本の伝統工芸品は、1873年、ウィーン万国博覧会に出品され、ヨーロッパにおけるジャポ二ズムのきっかけともなりました。

江戸時代の鉄瓶や茶釜は、どっしりと力強い味わいです。表面には、牡丹や桜などの植物や、鯉、ほととぎすなどの文様があしらわれ、つまみや鐶付、鉉(つる)など細部の意匠も凝っています。アールヌーボーを思わせる、蜻蛉の意匠の鐶付も。日常的に使用する物に、手作業によって、こんなにも芸術的な意匠が施されるとは、なんと贅沢な時代であったのかと感じます。

近年は、伝統的な技術を生かしながら、現代的でモダンなデザインの南部鉄器も生まれています。フランスやベルギーのティーサロンに、海外輸出用の南部鉄器のカラフルなティーポットが選ばれたことから、国内でも南部鉄器に注目が集まっているのはうれしいことですね。会場では、フランスのティーサロンをイメージし、ピンク、ブルー、パープル、グレーなど、カラフルなポットを並べたしつらえや、柳宗理の南部鉄器のキッチンウエアのコーディネイトも楽しめます。

南部鉄器で沸かしたお湯は、まろやかな味わいになるとか。機能性と美しさを兼ね備えた南部鉄器は、暮らしの中で楽しむ、小さなアートかもしれません。

展覧会のホームページはこちらから
パナソニック汐留ミュージアム


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Kawaii日本美術―若冲・栖鳳・松園から熊谷守一まで

好ましく、愛すべき対象をすべて「かわいい」と表現しがちな昨今に、疑問がない訳ではないのですが、共感のひとつの指標であることは確かかもしれません。日本美術の宝庫である山種美術館で、「かわいい」をキーワードとした展覧会が開催されています。「かわいい」と感じることのできる作品を見つけることから、日本美術に親しめる展覧会です。
<会期:2014年1月3日~3月2日>

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第1章は「描かれた子ども」。小さくて丸みを帯びた体形、愛らしい表情や仕草などに加え、描かれた時代の生活文化が感じ取れるのも魅力です。伊藤小坡(1877~1968)の「虫売り」(1932)は、市松模様の虫売りの屋台で虫を買い、うれしそうな子どもたちが描かれています。虫は、こおろぎでしょうか。鈴虫でしょうか。

川端龍子(1885~1966)の「百子図」(1949)は、首に鈴をつけた象を取り囲む子どもたちの図。戦後の昭和24年、子どもたちが「象を見たい」という手紙をインドに送ったことで、インドから象がやってきたのです。また、川﨑小虎(1886~1977)の「ふるさとの夢」(1928)は、角兵衛獅子の子どもがまどろんでいますが、夢にでてくるのは、離れて暮らす両親や、凧あげや水あそびをした懐かしいふるさとの日々でした。

第2章は「生きもの大集合」。牧進(1936~)の「明り障子」(2004)は、水仙の咲く冬の庭に、小雀たちが集っています。両側に開けた障子が描かれているため、鑑賞者が部屋から庭を見ている気持ちになり、水仙の香りが漂い、雀の声も聞こえてきそうです。

竹内栖鳳(1864~1942)は、「鴨雛」(1937)と「緑池」(1927)が印象に残ります。前者は、春の日差しの中、餌場でくつろぐ3羽の鴨が描かれ、手前の1羽は、満腹で仰向けになっているのがユーモラスな作品。後者は、画面には1匹の蛙のみが描かれ、水のブルーを蛙の身体に重ねて、池から顔だけのぞかせている様が表現されています。福田平八郎(1892~1974)の「桐双雀」(1942)は、2羽の雀が色の面で表現されており、版画のような味わいが新鮮で、丸々した身体もほほえましく感じられます。

第3章は「小さい・ほのぼの・ユーモラス」。伊藤若冲(1716~1800)の作品は、7体のほのぼのとした伏見人形を描いた「伏見人形図」(1799)と、五十数人の托鉢僧を描いた「托鉢図」(1793)。いずれも、なんと80歳前後に描かれています。そして必見なのが、熊谷守一(1880~1977)。「とのさま蛙」(1957)、「蝉」(1961)など、板に描いた油彩が展示されていますが、若冲と同じく80歳前後の作品です。形を単純化した輪郭と、平明な色彩。若冲も守一も、老境のおだやかな心持ちが伝わってくるようです。「かわいい」というと、幼さや未完成のニュアンスもありますが、悟りもまた、それを感じさせるということでしょうか。

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山種美術館

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大浮世絵展

菱川師宣、鈴木春信、喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、歌川広重、歌川国芳、月岡芳年、小林清親、川瀬巴水・・。江戸時代初期の風俗図屏風から、浮世絵の黄金期を経て、大正・昭和の新版画まで、浮世絵の全歴史が堪能できる展覧会「大浮世絵展」が、江戸東京博物館で開催されています。
<会期:2014年1月2日~3月2日>

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浮世絵は、文字どおり、浮世を描いた絵ですから、当時の風俗や風景を知ることができ、江戸の歴史や文化の資料として重要です。また、いきいきと日常を描いた画風や、大胆な構図、明るい色使いが、ヨーロッパの印象派の画家たちに影響を与えたこともよく知られています。芸術的に高い価値を持ちながら、版画という技法の発達によって、大衆が手にすることができたことも浮世絵ならではの特長ですね。まさに、世界に誇る日本の文化といっても過言ではありません。

 美人図、役者絵は、あまりにも有名ですのであえて触れませんが、19世紀に入って新ジャンルとして加わった風景画に心惹かれます。たとえば、歌川広重(1797~1858)の最晩年作「名所江戸百景」。吉原の一室を描いた「浅草田甫酉の町詣」は、富士山が見える開け放たれた障子窓から外を眺め、事が終わるのを待つ“猫”という構図。ゴッホが模写した「大はしあたけの夕立」は、隅田川にかかる新大橋で、突然の夕立に足早になる人々を描いていますが、雨の表現が秀逸です。

広重といえば、明治の広重と呼ばれた小林清親(1847~1915)の、輪郭線を用いず、光と影を強調して描いた「光線画」を初めて見ました。「日本橋夜」(1881)は、日本橋を行き交う人々を黒いシルエットで表現し、ガス灯の光と対比させた作品。変貌する都市“東京”の雰囲気が際立っています。そして、昭和の広重と呼ばれた川瀬巴水(1883~1957)。巴水については、ぜひ、こちらもお読みください。
生誕130年 川瀬巴水展―郷愁の日本風景

また、斬新な発想で次々と新機軸を打ち出した歌川国芳(1797~1861)も見逃せません。「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」は、錦絵3枚を横に並べたワイド画面。難破船に天狗が飛び交い、背後には巨大なワニザメという恐ろしさです。かと思えば、猫が集まって「うなぎ」の文字をかたどった「猫の当字 うなぎ」。ぎの濁点は、うなぎの頭部で描かれています。牡丹の花びらが、よく見ると獅子の顔で形作られた「深見草獅子彩色」など、ユーモラスな作品も。

パンフレットにあるとおり、「あなたの好きな浮世絵に出会える」展覧会です。

展覧会のホームページはこちらから
江戸東京博物館

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シャヴァンヌ展 水辺のアルカディア

国立西洋美術館で開催されている「モネ―風景をみる眼」(~2014年3月9日)の展示作品として、ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ「貧しき漁夫」(1887~1892頃)を見てから、その寂寞とした世界観がずっと気になっていました。単一感のある色調と舟の中で祈るように立つ漁夫の姿が寂しさと敬虔さを体現し、印象派の画家たちと同時代でありながら、まったく異質な雰囲気をたたえていたからです。

その色調と精神性が特長的なシャヴァンヌ(1824~1898)の展覧会が、Bunkamura The Museumで始まりました。ピカルディ美術館、リヨン美術館、パリ市庁舎、ソルボンヌ大学など19世紀フランスの主要な建造物の壁画を次々と手がけ、ゴーガン、ゴッホやピカソらにも大きな影響を与えた画家であったことを知ることができます。
<会期:2014年1月2日~3月9日>

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シャヴァンヌは、22歳のときイタリアに旅行し、画家になると決意。24歳で再訪した際、初期ルネサンスの壁画に感銘を受け、壁画家を志しました。壁画といっても、壁面に直接描くのではなく、油彩のカンヴァスを壁面に設置していましたが、一度設置すると動かすことができないため、壁画の縮小作品を制作し、展覧会に出品していました。

本展でも、壁画の展示は、邸宅が取り壊された際に取り外された「幻想」(1866)のみ。ニンフとペガサス、リースをつくる子供といった題材に加え、全体に青みがかった色調が、なんとも幻想的な作品です。20年後に制作された縮小作品(1886-87頃)とともに見ることができますが、縮小作品の方は、近くで見ることを意識したのか、実物に近い色彩で力強く描かれています。

他の壁画は、習作や縮小作品での展示ですが、実にたくさんの人物がさまざまなポーズで描かれています。丸太を切る男、赤子を抱く女、火をおこす者、槍投げの練習をする男、老人の言葉をきく若者・・。シャヴァンヌの「作品は一種の混沌とした感情から生まれます。私は何度も何度も思考をめぐらせ、その思考を正確に翻訳するひとつの光景をさがすのです」という言葉のとおり、労働や平和、慈愛や愛国などの理念や感情を翻訳するために、どのような人物をどのようなポーズで配置し、どのような意味を持たせるのかを、綿密に構想していたのではないでしょうか。

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折しも、1870-71年の普仏戦争や、それに続くパリ・コミューンにより壊滅的な打撃を受けたパリには、その傷を癒し、牧歌的な理想郷を思い起こす必要がありました。シャヴァンヌの描いたアルカディア(理想郷)のひとつ「諸芸術とミューズたちの集う聖なる森」(1884~89頃/ポスターに使用)にも、穏やかで安らぎに満ちた水辺の光景が描かれています。それぞれにポーズをとる建築・彫刻・絵画の化身と、9人のミューズたち。自らの精神世界を翻訳した画面構成と、ベールをかけたような淡いトーンのおさえた色調が、静謐でおごそかな雰囲気を醸し出しています。

新年を、シャヴァンヌのアルカディアから始めてみてはいかがでしょうか。

展覧会のホームページはこちらから
Bunkamura The Museum

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心が豊かになるアートを見つけに飛び立つ青い鳥です。

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