イメージの力 国立民族学博物館コレクションにさぐる

世界の諸民族の生活の中には、さまざまな造形物を見ることができます。たとえばトーテムポールは、一族のシンボルとして、また、死を弔う墓標としても立てられたといいます。先祖から伝わる歴史をかたちにしたものといえるかもしれません。大阪にある国立民俗学博物館は、世界各地の造形物や生活用具など約34万点を所蔵。そのコレクションの逸品が、東京の国立新美術館で展示されています。
<会期:2014年2月19日~6月9日>

img 640

まず印象に残るのは、メキシコ、コンゴ、ブータン、パプアニューギニアなど、世界各地から集められた「仮面」約100点が、壁一面に並んでいるスペース。仮面には、人々の意識が仮面を通して異界と交わるという意味合いがあるのだとか。パプアニューギニアの木製の仮面は、素朴な魅力に満ち、根源的な精霊のイメージに近いように思えました。人々が、より自然と密接に関わって生きてきたからでしょうか。

儀礼や宗教、呪術に関連して、神や精霊など見えないものを視覚化したり、高く見上げるような造形を通じて、他界や異界とつながることも行われています。インドネシアの葬送用の柱「ビス」は、人の3~4倍の高さがある造形。死者を乗せたかもしれない舟の上に、人間の姿に似た造形が積み重ねられ、生まれ変わりを象徴しているかのようです。死者の霊をはるか上空の世界に送り出すイメージが感じられます。パプアニューギニアの神像「マランガン」も、4体の人の姿が上に連なり、頂点には2羽の鳥があしらわれた、高みへと向かうイメージの造形です。

ビーズや貝、羽根、動物の牙、草、実、種子などでつくられた装身具も展示されています。富や権力を象徴するだけでなく、邪悪なものを跳ね返す力を持つとされているそうです。

現代の消費社会を背景としたイメージもあります。セネガルやベトナムで観光用に売られている飛行機などの玩具は、コカコーラや一番搾りといった、飲み物の空き缶で作られているのです。また、モザンビークの内戦後、人々から回収された武器でつくられた肘掛椅子は、平和への願いだけでなく、ある目的を持って生み出されたイメージが新たな意味を持ち、生まれ変わっていくという点においても考えさせられます。

人間が生み出す「もの」の持つ意味や力を問い直す展覧会です。

展覧会のホームページはこちらから
国立新美術館

テーマ:美術館・博物館 展示めぐり。 - ジャンル:学問・文化・芸術

アンディ・ウォーホル展 永遠の15分

ウォーホル(1928~1987)といえば、さまざまな色使いのマリリンモンローと、正面から描かれたキャンベルスープ缶。でも、それ以外の作品を体系的に鑑賞できる機会はあまりありませんでした。「国内史上最大の回顧展」と銘打って、700点という作品と資料でウォーホルの全貌を紹介する展覧会が、森美術館で開催されています。
<会期:2014年2月1日~5月6日>

img 632

1950年代、ウォーホルは、商業デザイナーとして広告を手がけていました。ブロッテド・ラインと呼ばれる、太いところと細いところのあるにじんだような黒の線で描かれた当時のイラストは、今見てもとてもおしゃれです。赤とピンクで彩られた靴と脚、逆立ちしている天使やケーキなど、同時代のあまたのイラストレーターに影響を与えたのではないでしょうか。

1960年代、ウォーホルが描いたのは、キャンベルスープ、マリリンモンロー、エルヴィスプレスリー、ジャクリーンケネディ、キャデラック・・と、極めてアメリカ的な題材。新生児を医師が逆さに吊るす写真や、電気椅子をモチーフとした「死と惨事」というシリーズもあります。同一のモチーフが繰り返され、連続・反復することで、実在したものなのに、どこか非現実的で乾いたイメージが感じられます。

1970~80年代になると、ヴァレンティノやミックジャガー、マイケルジャクソンといった有名人のシルクスクリーン作品を手がけるようになりますが、活動は多様化。1983年の「絶滅危惧種」は、アフリカゾウ、ジャイアントパンダ、クロサイ、オオツノヒツジ、ハクトウワシなどを描いたシリーズですが、どれも独自の存在感と迫力に満ち、見入ってしまいます。同年の「玩具の絵画」は、子どもの目線で展示されているため、大人はかがんでの鑑賞となりますが、鮮やかな配色で、オウム、犬、魚などがポップに描かれた、楽しい小品シリーズです。

ウォーホルは、「ファクトリー」と呼ばれるニューヨークのスタジオで作品を制作していました。会場には、内部が銀色に装飾された「シルバーファクトリー」(1963~68)の一部をほぼ原寸で再現したコーナーもあります。床には、ハインツトマトケチャップや洗剤ブリロのダンボール箱が置かれているように見えますが、これも現物そっくりに制作されたウォーホルの彫刻作品です。美術関係者やミュージシャン、俳優、詩人などが集っていたそうですから、自分も当時のアンダーグラウンドカルチャーの一員となった気分で見ることができます。

会場の入り口には、黒地に赤の自画像、そして、出口にも、迷彩柄をのせた自画像が展示されています。パンフレットに「入門編」とあるとおり、「ウォーホルとは?」が総覧できる展覧会です。

展覧会のホームページはこちらから
森美術館

テーマ:美術館・博物館 展示めぐり。 - ジャンル:学問・文化・芸術

ザ・ビューティフル 英国の唯美主義1860~1900

凡庸な壁紙、テーブルクロス、家具、燭台などで飾り立てられた住宅に暮らすのではなく、生活の中の調度品にも確固とした美を求める―。絵画だけでなく、暮らしの中にも美を提唱した、英国の美術運動「唯美主義」。油彩画、家具工芸品をはじめとする140点で、唯美主義を総合的に紹介する展覧会が、三菱一号館美術館で開催されています。
<会期:2014年1月30日~5月6日>

img 631

絵画においては、物語や逸話を主題とするのではなく、ただ美しく、見る人の目を歓ばせるための芸術が展開しました。メインビジュアルのアルバート・ムーア(1841~1893)の「真夏」(1887)は、その極みともいえる作品。鮮やかなオレンジ色のローブをまとった女性は、どこまでも美しく、優雅なたたずまい。東洋趣味の扇子にあおがれ、中央の女性は、古代風の椅子にもたれて眠り込んでいます。椅子の背には、黄色が美しいマリーゴールドの花輪。あまりにも明るく、やわらかな光に包まれているため、一瞬、デイドリームのようですが、背景には夜のとばりが降りています。まさに、真夏の夜の夢。画面が美的なものだけでうめつくされていますね。

古代風のローブや椅子に見られるように、唯美主義の芸術家たちは、古代ギリシアを理想としていたといいます。そして、もうひとつの理想は、なんと、開国したばかりの日本。1862年のロンドン万国博覧会に、染織、陶磁器、漆器、金工など日本の工芸品600点以上が出品され、その芸術性が高く評価されました。日本様式の芸術性の高い調度品を取り入れた暮らしが、美しいとされたのです。

フレデリック・レイトン(1830~1896)の「母と子(さくらんぼ)」(1864~65)は、ペルシア絨毯の上によこたわる母に、子どもがさくらんぼをさしだす様が描かれていますが、背景には、鶴を描いた日本の屏風が置かれています。また、ウィリアム・ブレイク・リッチモンド(1842~1921)の「ルーク・アイオニディーズ夫人」(1882)の背景には、蝶や花を刺繍した、日本の絹布があしらわれています。

「家には、役に立つと思うか、美しいと信ずるもの以外、置かないように」とは、画家や建築家の仲間とともに、芸術的な家具の普及に力を注いだウィリアム・モリス(1834~1896)の言葉です。唯美主義は、一部の芸術家だけでなく、家庭の家具や室内装飾を通じて、一般の人々の美意識を改革したことに意義があったと考えられます。遠く離れた日本の工芸品も影響を与えていました。美しい暮らし―今を生きる私たちも見直してみたいですね。

もっと19世紀の英国美術に触れるために、また、わざを凝らした日本の工芸品を知るために、以下の展示もいかがでしょうか。
ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢(森アーツセンターギャラリー)
人間国宝展(東京国立博物館)

展覧会のホームページはこちらから
三菱一号館美術館

テーマ:美術館・博物館 展示めぐり。 - ジャンル:学問・文化・芸術

ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢

夏目漱石の美術世界展(2013年5月14日~7月7日)で、漱石の愛したイギリス美術の魅力に触れることができましたが、ターナー展(2013年10月8日~12月18日)、そして、森アーツセンターギャラリーで開催されている「ラファエル前派展」と、本物に出会える機会が続いています。
<会期:2014年1月25日~4月6日>

img 618

産業革命を実現し、大英帝国の絶頂期であったヴィクトリア朝(1837~1901)において、1848年、保守的な美術界に反旗を翻す芸術運動が起こります。若き画学生らのグループ「ラファエル前派」によるもので、ミレイ(1829~1896)、ロセッティ(1828~1882)、ハント(1827~1910)の3人が活動の中心となりました。当時の美術界が、ラファエロを規範とする型にはまった形式主義に陥っていると批判し、ラファエロ以前の素朴で誠実な、自然をありのままにみつめる絵画に戻ろうとしたとか。

独創的なアイディアを持つこと、自然を注意深く観察すること、絶対的に優れたものを制作することを掲げた彼らの作品は、特に女性像において、生身の女性の圧倒的な美しさに満ちています。シェイクスピアなどを題材としながら、登場人物は、恋人や妹など実在の女性をモデルとしていたからかもしれません。自分たちの絵のイメージに合う女性を街でみつけては、「唖然とするほどの美女」と呼んでモデルに起用したそうです。

ミレイの「オフィーリア」(1851~52)のモデルは、ロセッティの妻となるシダル。小川でオフィーリアが死にゆく場面を描いていますが、死を前にしても美しい、はかなげなオフィーリアの表情に目を奪われます。細密に描きこまれたドレス。数ヶ月をかけて描いたとされる背景の植物も細密に描写され、精気のあるグリーンが鮮やか。澄んだ流れの中に沈みゆくオフィーリアとの対比が、華麗でロマンティックです。

ロセッティの「見よ、我は主のはしためなり」(1849~50)のマリアは、ロセッティの妹がモデル。翼のない天使とベッドの上のマリアという構成の受胎告知ですが、怯えたようなマリアの表情が斬新です。

ロセッティの作品は、上半身の女性像を集めて展示したコーナーがあり、「プロセルピナ」(1874)が印象的です。ウィリアム・モリスの妻であったジェインがモデルですが、ジェインはロセッティとも親密であったそう。ザクロを食べたため、冥界と地上で交互に暮らすことになったプロセルピナの運命を、三角関係になぞらえています。意志を秘めたまなざしやくちびるの表情に、生身の女性の感情が感じられます。

いずれも、ラファエロの聖母子像のような女性像ではありませんが、みずみずしい魅力にあふれています。ラファエロ前派は、新しい美しさを追求した芸術運動であったといえるのではないでしょうか。

展覧会のホームページはこちらから
森アーツセンターギャラリー


テーマ:美術館・博物館 展示めぐり。 - ジャンル:学問・文化・芸術

人間国宝展―生み出された美、伝えゆくわざ

三井記念美術館で「超絶技巧!明治工芸の粋」と題した展覧会が春に開催予定であったり、南部鉄器に注目した展覧会がパナソニック汐留ミュージアムで開催中であったり、日本の伝統的な「わざ」が改めて注目されているように思います。

日本では、優れた工芸家を「人間国宝」(重要無形文化財の保持者)に認定しています。人間国宝の作品に加え、時代を超えて伝えられてきた工芸の名品が展示され、「わざ」の美を堪能できる展覧会が、東京国立博物館で開催されています。
<会期:2014年1月15日~2月23日>

img 614

会場では、陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形、諸工芸の分野の作品をみることができます。104人の名品が一堂に会していますので、心にとまる作品にきっと出会えるはずです。

たとえば、秋山逸生(1901~1988)の「輪花文縞黒檀印箱」(1981)。木象嵌(もくぞうがん)という、木材に象牙など種類の異なる素材をはめ込んで、文様を表す技法で作られています。モダンで格調高い雰囲気が感じられます。
前田竹房斎(二代)(1917~2003)の「六合花籃」(1997)。細い竹ひごの編みこみが、えもいわれぬ美しさです。
田畑喜八(三代)(1877~1956)の「一越縮緬地鳳凰桐文振袖」(1954)。幸野楳嶺、竹内栖鳳に日本画を学んだという三代による、鳳凰をモチーフとした友禅。鮮やかな色彩と、ダイナミックで華麗な模様に目を奪われます。

また、鉄地の表面に細い切れ目を入れ、金銀等を打ち込む「布目象嵌」や、金箔を極細の線に切り、ひとつずつ貼り付けて文様を描く「截金(きりがね)」など、知らなかった技法の美しさを知ることができるのも魅力です。

機械化による大量生産品も便利ではありますが、道具や器、衣服などの品々を通して、「わざ」を凝らした美しさに触れることができたなら、どんなにか心豊かなことでしょう。そんな手仕事の価値を失わずにいたいですね。

展覧会のホームページはこちらから
東京国立博物館

テーマ:美術館・博物館 展示めぐり。 - ジャンル:学問・文化・芸術

プロフィール

青い鳥

青い鳥
心が豊かになるアートを見つけに飛び立つ青い鳥です。

最新記事
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSS
リンク
QRコード
QR
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文: