輝ける金と銀 琳派から加山又造まで

心を魅了してやまない、金銀の光輝くきらめき。日本画においても、さまざまなかたちで用いられてきました。金や銀で表現された作品を集め、さらに、その技法を再現したサンプルをいっしょに展示するという興味深い展覧会が、山種美術館で開催されています。
<会期:2014年9月23日(火)~11月16日(日)>

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山種美術館といえば、速水御舟(1894~1935)「名樹散椿」(1929)。金地には、白、ピンク、赤と種々の花を咲かせた椿の古木。金の背景が深く静かに広がり、美しさを永遠に画面に閉じ込めたかのよう。この均一で抑えた輝きを放つ金の背景は、金箔を細かくした金砂子を、何度も撒いてはすりつぶす「撒きつぶし」という技法で描かれているのだそうです。会場には、金の箔押し、金泥、撒きつぶし、3種のサンプルが展示され、それぞれの輝きを比較することができます。御舟がなぜ「撒きつぶし」を選んだのかがわかる気がします。

銀の均一な背景に美しさを閉じ込めたのは、牧進(1936~)「春飇」(2009)。銀砂子を全面に撒きつぶし、輝きを抑えるため、上からプラチナ泥を刷いたのだそう。風にあおられる牡丹と黒い蝶、それぞれの様が際立って見えます。

横山大観(1868~1958)「竹」(1918)は、画面の裏から金箔を貼る「裏箔」の技法が取り入れられています。絹の目の隙間から見える、やわらかな金の輝きを利用したのだとか。独自の美しさを創造するために、さまざまな工夫が凝らされていることに驚きます。

金や銀は、背景だけでなく、モチーフそのものにも使用されています。川端龍子(1885~1966)「草の実」(1931)は、紺地の背景に、萌え茂る秋草が金泥で華麗に描かれています。雑草を金泥で描くという発想も面白いですが、焼金や青金など種類の違う金泥で描かれた、重なり合い無数に茂る秋草の美しさも秀逸です。川端は、「絵具として金色を使ったのは私が初めてでしょう」と述べているそう。

小林古径(1883~1957)「しゅう采」(1934)は、秋の彩りとして、柿の枝を描いていますが、実には朱と金が、葉には金が用いられています。色づく葉の変化や、秋の夕陽の趣きが感じられます。横山操(1920~1973)「マンハッタン」(1961)は、建ち並ぶビルが銀や金で描かれ、心象風景のようにも感じられます。

他にも、雲霞(岩佐又兵衛)、月影(酒井抱一)、くもの巣(速水御舟)、ミミズクの目(横山大観)の表現にも金や銀が活かされていました。画家たちの知識と想像力が一体となった作品のかずかず。技法を知れば、鑑賞の仕方も変わってきそうです。

展覧会のホームページはこちらから
山種美術館

テーマ:美術館・博物館 展示めぐり。 - ジャンル:学問・文化・芸術

ボストン美術館 ミレー展

ミレー(1814~1875)の油彩画、パステル画など170点を収蔵し、ミレーの母国フランス以外で随一のミレーコレクションを持つボストン美術館。ミレーの生誕200年を記念して、「種をまく人」(1850)をはじめとするミレー作品が来日。農村バルビゾンで活動したコロー(1796~1875)、テオドール・ルソー(1812~1867)、そしてミレーの影響を受けたモネ(1840~1926)などの作品と合わせて、総点数64点を三菱一号館美術館で見ることができます。
<会期:2014年10月17日(金)~2015年1月12日(月)>

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フランス北西部のノルマンディ地方の裕福な農家に生まれたミレーは、パリで美術の教育を受け、26才でサロンに初入選。30代半ばでバルビゾンに移住し、畑を耕し種をまく農民の営みを描き続けました。奥深い森の情景が主体で、人物は小さく描かれたコローやルソーの作品が並ぶ中で、人物に焦点をあてたミレーの作品は目を引きます。

「種をまく人」に描かれているのは、大きく右足を踏み出し、右腕を振って種をまく、力強い農民の姿。宗教や神話を題材に理想化された人物を描くことが主流だった当時、農民を英雄のように堂々と描いたこの作品は、衝撃を与えたといいます。右手の中の白い種や、手からこぼれ落ちる種も丹念に描かれています。

「馬鈴薯植え」(1861頃)は、馬鈴薯の種いもを植える夫婦が主題。左奥の木にはロバがつながれ、傍らに置かれたかごの中で夫婦の子供が眠っています。農作業だけでなく、「洗濯女」(1855頃)には、三日月の浮かぶ黄昏時、川で洗い終えた洗濯物を肩にのせて運ぼうとする農婦の姿が。いずれも、自然によりそって生きる農民の勤勉でおだやかな日常が感じられます。

ミレーは、子どもの手をとり編み物を教える母親や、眠る子のそばで縫い物をする女性など、室内で家事に勤しむ女性たちも描きました。これらの作品は、都会で暮らす人々の郷愁を誘い、中産階級に支持されたとのこと。感情を揺さぶる強い印象はありませんが、レアリスム絵画が持つ、時代の記録性という価値を感じます。

ミレーのもっとも幼い時期の記憶は、糸を紡ぐ女たちの声だったそうですが、「糸紡ぎ、立像」(1850~55頃)では、女性が大きな糸車を使って糸を紡いでいます。頭に白いスカーフを巻いてわずかに身をかがめた女性は、なんともいえないやさしい雰囲気。ミレーがあたたかな眼差しでみつめたからなのでしょう。

ミレーの影響を受けた画家たちの作品も展示されています。黒田清輝(1866~1924)は、ルーブル美術館でミレーを模写し、バルビゾン村も訪れたそう。バルビゾン派第2世代とされるジュリアン・デュプレ(1851~1910)は、農民の生活を描きながら、印象派の影響を受けた明るい色彩を用いています。

歴史や神話ではなく、農民の地道な営みの中にも芸術の対象があることを知らしめたミレー。この秋、そのおだやかな世界観に触れてみませんか。

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三菱一号館美術館

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チューリヒ美術館展 印象派からシュルレアリスムまで

モネ、ホドラー、ムンク、クレー、シャガール―。日本とスイスの国交樹立150年となる今年、スイスの美の殿堂チューリヒ美術館から、近代美術の傑作74点が来日しました。国立新美術館での展示は、ひとりの作家を特集する「巨匠の部屋」と、ポスト印象派、表現主義、キュビスムなど美術の運動や流派をまとめた「時代の部屋」が交互に並ぶユニークな構成。印象派からシュルレアリスムまで、時代を追って総覧できます。
<会期:2014年9月25日(木)~12月15日(月)>

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心ひかれたのは、スイスの象徴主義を代表する画家、ホドラー(1853~1918)。「真実、第二ヴァージョン」(1903)は、真実の象徴である裸婦が中央に。両手を上にあげて正面を見据えています。裸婦の左右には、真実を見ることを恐れ、黒の布で顔を覆った男性が3人ずつ。男性は、崖っぷちに向かっているように見え、裸婦に退けられ奈落に落ちてしまうような。ホドラーは、類似した形態の反復による秩序やリズム感を重視していたとのことで、左右の男性のポーズは反復し、画面は左右対称に構成されています。神秘的な佇まいの作品です。

先月まで、三菱一号館美術館で回顧展が開催されていたヴァロットン(1865~1925)の作品も展示。スイスに生まれ、パリで活躍しました。「トランプで一人遊びをする裸婦」(1912)の裸婦は、回顧展で見た「トルコ風呂」(1907)の裸婦と同じ、独特の量感。寝そべって、クッションの上にトランプを並べています。抑えた色彩の壁と床に対し、トランプが並ぶ赤のクッションが鮮やか。意味ありげなハートのエースが見えます。

精神性を重んじるドイツ表現主義の画家、マックス・ベックマン(1884~1950)。人間を人生という芝居を演じ続ける俳優にたとえていたといいます。「女優たち」(1946)は、楽屋のふたりの女優を描いた作品。ひとりは、冠をかぶって剣を持ち、台本を手にする堂々とした女性。もうひとりは鏡に向かい、白の布で顔を覆っています。どちらもピンクのブーツで、胸は露わ。太く荒々しい黒の輪郭線と、ピンク、赤、緑などの色彩が鮮烈です。どんな人生を象徴しているのでしょうか。

巨匠の名画を独自に解釈した作品を描いたというピカソ(1881~1973)。「大きな裸婦」(1964)は、ゴヤ(1746~1828)の「裸のマハ」(1797~1800)に着想を得たといいます。黒髪の裸婦の肌は、白くなめらか。背景は鮮やかな青と緑で塗られ、爽やかな雰囲気も。

シャガール(1887~1985)の愛にあふれた2つの油彩も印象的です。妻ベラとの婚礼の思い出を描いた「婚礼の光」(1945)は、青が基調。白のウエディングドレスの美しさが浮かび上がります。「パリの上で」(1968)はイエローが基調。花瓶いっぱいの花と、赤い輪の中で寄り添う恋人たちに、妻への思いが感じられます。

モネ(1840~1926)の縦2m、横6mという大作「睡蓮の池、夕暮れ」(1916~22)もあり、見どころ満載。国立新美術館では10月20日まで、オルセー美術館展も開催されています。あとわずかですが、同時鑑賞も贅沢ですね。

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国立新美術館

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ディスカバー、ディスカバー・ジャパン「遠く」へ行きたい

1970年に行われた大阪万博の総来場者数は、6400万人。なんと国民の半分が出かけたことになります。万博に向けて整備された旅客網を活用するため、万博が終了した翌月の10月、日本国有鉄道は、個人旅行促進キャンペーン「ディスカバー・ジャパン」を開始しました。今でこそ、女性の二人旅や一人旅は当たり前ですが、当時の旅行は団体旅行が主体。新たな旅行スタイルを提案する「ディスカバー・ジャパン」は、国鉄の古臭いイメージを刷新し注目を集めました。

このキャンペーンを、当時のポスター約100点を中心に振り返る展覧会が、東京ステーションギャラリーで開催されています。
<会期:2014年9月13日(土)~11月9日(日)>

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まず展示されているのは、同じ1970年に展開された「モーレツからビューティフルへ」という富士ゼロックスの広告。高度成長の時代であった1960年代のスローガンが、がむしゃらに突っ走る“モーレツ”だとすれば、1970年代は、本当の豊かさを追求する“ビューティフル”の時代だとするイメージ広告です。「ディスカバー・ジャパン」のテーマも、“日本を発見し、自分自身を再発見するための旅”。前を向いて突っ走るだけではなく、立ち止まって自分自身を見つめ直してみよう、というコンセプトが共通しています。プロデュースしたのは、どちらも電通の藤岡和賀夫(1927~)。

「ディスカバー・ジャパン」のポスターは、名所旧跡を説明するのではなく、若者の感性に訴え、旅心を刺激することを目的に制作されたといいます。場所を特定せず、わざとブレた写真を使用したポスターも。そして登場するのは、つけまつ毛や、当時流行したマキシやベルボトムを身に着けた、ちょっと外人風の若い女性。1970年3月3日に創刊された女性ファッション誌「an・an」も展示されていますが、まさに表紙の女性と同じイメージです。

他の女性誌とは異なり、芸能スキャンダルを掲載しない「an・an」は、その自由な発想の誌面が若い女性に支持され、旅特集も人気でした。1971年創刊の女性誌「non-no」も旅特集を掲載したため、両誌を片手に全国を旅する“アンノン族”と呼ばれる女性が急増しました。

キャンペーンは全国を対象地とし、ポスターだけでなく、記念スタンプ、ミニ周遊券、季刊誌、新聞、テレビ番組と多岐にわたっています。特に、国鉄が提供したテレビ番組「遠くへ行きたい」は、一人でも旅をすれば面白いことを伝えるユニークな番組。会場では当時の映像を見ることができます。

40年前の時代性を再発見できるかもしれません。

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東京ステーションギャラリー

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わたしのマーガレット展

少女漫画誌「週刊マーガレット」が創刊したのは、1963年。創刊から1970年頃までには、わたなべまさこ、西谷祥子、本村三四子、浦野千賀子などの強力連載で、日本中の少女の心を鷲づかみに。「マーガレット」派とライバル誌「少女フレンド」派が、教室を二分していたとか。マーガレットの創刊50周年を記念して、50年を彩った70作家400点に迫る原画が並ぶ展覧会が森アーツセンターギャラリーで開催されています。
<会期:2014年9月20日(土)~10月19日(日)>

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創刊時の原画は、ピンク地に白のレース模様の壁面に展示されています。1960年代は、外国を舞台にしたロマンスや、家庭や学校など身近な日常を描く物語が多かったそう。わたなべまさこ「ガラスの城」(1969~1970) は、華やかな異国の地でのサスペンス。当時想像もつかなかった伯爵家の生活ぶりなどを、彼女の漫画から思い描くことができたのではないでしょうか。西谷祥子「マリイ♥ルウ」(1965~1966)は、ファッショナブルでロマンティックな恋物語。読者は少しお姉さんになった気分で、恋を疑似体験していたのかもしれません。

スポーツ漫画や恐怖漫画も一世を風靡しました。バレーボール漫画である浦野千賀子「アタックNo.1」(1968~1970)は、スポ根ものの代表作としてテレビアニメでも大人気に。テニス漫画として山本鈴美香「エースをねらえ!」(1973~1980)。日本にテニスブームを巻き起こしました。黒地に赤い血がしたたる壁面には、恐怖漫画の原画が。古賀新一の漫画には、人面瘡や白へび、毒ぐもの化身が登場し、こわいけれど読んでしまう一大ブームに。

宝塚歌劇の演目としても人気の池田理代子「ベルサイユのばら」(1972~1973)は、少女漫画史における不朽の名作。原画は、宮殿風の壁紙をあしらった壁面に展示されています。その華麗な世界にあこがれた少女は数知れません。会場には、オスカルとアンドレの等身大立像も(撮影可能です)。

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テレビドラマ化された神尾葉子「花より男子」(1992~)の原画は、黒板や机をアレンジし、教室をイメージした展示室に。学生時代の気持ちがよみがえります。50年のラインナップですから、心に残る漫画は、どの時代を過ごしたかによって違うはず。映画が話題の紡木たく「ホットロード」(1986~1987)や、エッセイストとしても活躍する槇村さとる「愛のアランフェス」(1978~1980)などなど。

展示のラストの壁面には、過去のマーガレットの表紙が一面に並んでいます。時代を超えて、胸をときめかせる少女漫画の世界が堪能できます。

展覧会のホームページはこちらから
森アーツセンターギャラリー

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心が豊かになるアートを見つけに飛び立つ青い鳥です。

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