夢二からちひろへ ―子どもの本の先駆者たち―

明治末から大正にかけて、子どものための教育や本への関心が高まり、子ども向けの雑誌も創刊されました。童画という言葉が生まれ、それらの雑誌に描かれた絵は、当時の子どもたちに夢やあこがれを抱かせたことでしょう。竹久夢二(1884~1934)、岡本帰一(1888~1930)、清水良雄(1891~1954)、武井武雄(1894~1983)、初山滋(1897~1973)、深沢省三(1899~1992)、村山知義(1901~1977)、茂田井武(1908~1956)といった、子どもの本の先駆者である画家たちの作品を、いわさきちひろ(1918~1974)の作品とともに展示する展覧会が東京のちひろ美術館で開催されています。
<会期:2014年11月6日(木)~2015年1月31日(土)>

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まず展示されているのは、竹久夢二が描くモダンな子ども像。水族館の魚に見入る子どもたち(1915)や、海を目の前にして砂浜に立つ子どもたち(1915)。いずれも後ろ姿ですが、目をきらきらさせた子どもたちの表情が想像できます。

絵雑誌「コドモノクニ」の絵画主任を務めたという岡本帰一が描いた、黒板にチョークで絵を描く子どもたち(1925)や遠足で一本橋を渡る子どもたち(1920)を見ていると、時代を経て、服装や食べ物や生活習慣が変わっても、子どもの本質は変わらないのではないかと思えてきます。

そして、最も心に残ったのは、戦後の混乱期に活躍した茂田井武。特に晩年、絵雑誌「キンダーブック」のために描かれた3枚が秀逸でした。「すてんどぐらす」(1954)には、大きな3つのステンドグラスの前に立つ、ふたりの子どもが描かれています。それぞれのステンドグラスには季節の情景が描かれ、春は花とうさぎ、夏は海の中の魚、秋はきのこと鹿。差し込む光が子どもたちを包み、まるで、ステンドグラスの中の世界に誘っているかのようです。

「とりよせのおじいさん」(1956)は、あざやかな緑の野原で、おじいさんがとりよせの笛を吹いています。集まってきた鳥は、数十羽。黄色、オレンジ、青、緑、鮮やかな色彩で、1羽ずつ描き分けられています。仰向けになって鳥を見る男の子、そして、座って鳥を見上げる女の子。自分も鳥になって、空を飛んでいるのかもしれません。

「おめでとう」(1956)は、世界の子どもたちや、象、ライオン、トラなどの動物たちが、新年の「おめでとう」という挨拶を交わしています。握手をしたり、おじぎをしたり、何人もで手をつないだり、みんな幸せで楽しそうです。色彩の美しさも素晴らしいのですが、ひとつひとつの絵が物語を奏で、茂田井武ならではの世界に誘ってくれます。

いわさきちひろは、少女の顔が大きく描かれた絵のイメージがありましたが、虹を見る子どもたち(1957)や、はないちもんめ(1958)や雪合戦(1960)をする子どもたちなど、複数の子どもたちが描き分けられた絵が展示されており、新鮮な気持ちになりました。

1世紀から半世紀も前に、子どもたちに夢を与えた作品のかずかず。今なお、私たちの心を刺激してくれます。

展覧会のホームページはこちらから
ちひろ美術館

テーマ:美術館・博物館 展示めぐり。 - ジャンル:学問・文化・芸術

巨匠たちのアートポスター パリ・ムルロー工房から

シャガールの「ダフニスとクロエ」(1961刊)、デュフィの「電気の精」(1953)など、リトグラフの傑作を生み出してきたパリのムルロー工房。140年の歴史を持ち、ムルロー家が3代にわたって経営した版画工房です。ピカソをはじめ、マティス、ミロ、シャガール、ビュッフェら錚々たる芸術家が信頼をよせ、工房を訪れて多彩な作品を誕生させました。このムルロー工房で制作されたアートポスターを集めた展覧会が、ノエビア銀座ギャラリーで開催されています。
<会期:2014年11月4日(火)~2015年1月9日(金)>

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会場のポスターは、作家たちの個展やグループ展の告知用として制作されたもの。たとえば、1953年、パリの国立近代美術館で開催されたキュビスム展のポスターには、ピカソの「アヴィニョンの娘たち」が、同美術館で1956年に開催されたマティス展のポスターには、マティスの「マグノリアのある静物」が使用されています。ピカソ、マティスに加え、シャガール、デュフィ、カンディンスキーのポスターも展示されています。

ポスターは、半世紀も前のものとは思えないほど、色鮮やか。展覧会自体は、半世紀前に終了していますが、ポスターは、会場で今も見ることができ、彼らの絵画を実際に見る機会はなかなかありませんが、ポスターを通じて出会うことができます。そう思うと、ポスターは、時代を超えた、画家の自分自身のための広告のようにも見えてきますね。

ギャラリー内はブルーの光に包まれ、そこだけ、パリの小宇宙のよう。夜は、クリスマスツリーも点灯しており、並木通りに華やぎを添えていました。外から覗くのも、美しく楽しいギャラリーです。

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ノエビア銀座ギャラリー

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ティム・バートンの世界

映画「シザーハンズ」や「チャーリーとチョコレート工場」などで知られる、監督ティム・バートン(1958~)。ファンタジーやホラーを織り交ぜた、ちょっと不気味だけれど可愛い独特の世界観は、やみつきになる魅力を放ちます。油絵、スケッチ、デッサンなど約500点を通して、そんなティム・バートンの頭の中を覗ける展覧会が森アーツセンターギャラリーで開催されています。
<会期:2014年11月1日(土)~2015年1月4日(日)>

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次から次へと現れるのは、映画に登場するキャラクターのアイディアを描いたスケッチやストーリーボード。ティム・バートンならではの映画世界が出来上がる過程を、うかがい知ることができます。「シザーハンズ」のエドワード、コープスブライド等、盛りだくさんです。立体作品として、赤の「デビルドッグ」や、「チャーリーとチョコレート工場」に登場するウンパ・ルンパも。

スケッチだけでなく、20×24インチの大判インスタントカメラを使用した、特大ポラロイド写真の作品も見ることができます。映画の視覚的テーマやモチーフが表現されていますが、さすがに高い完成度です。

18歳のころ、ウォルト・ディズニー・パブリッシングに出版を打診した絵本の原稿も展示されています。ディズニーからの断りの手紙とともに。その後、ディズニー・スタジオのアニメーターとしてキャリアをスタートし、監督デビューを果たすのですから、結局、縁があったのですね。

2009年にニューヨーク近代美術館で開催されたティム・バートン展は、なんと80万人以上の来場者を集めたとか。さらにブラッシュアップされた本展は、プラハに次ぎ、日本が2ヶ国めの開催地となっています。見逃せませんね。

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森アーツセンターギャラリー

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清川あさみ個展 TOKYOモンスター

何かを着ているはずなのに、彼らはみんな裸に見える。傷つきやすい生身の体をさらして、それでも、街に出ずにいられないんだろう。―本谷有希子

原宿ファッションやネット社会の原点であった1990年代。写真に刺繍を施すアーティスト清川あさみが、当時の原宿ストリートファッションのスナップ写真を素材に、新作を発表しました。カラフルなファッションの若者たちの顔部分に刺繍を施し、独自のイメージを伝えています。パルコミュージアムで開催中です。
<会期:2014年11月29日(土)~12月15日(月)>

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清川の作品ひとつひとつには、劇作家・小説家の本谷有希子の言葉が添えられています。傘からたれた雫が涙のような刺繍には、「クラスではいじめられっこ」。自分だけを映す鏡の刺繍には、「いつも自分だけ」。金魚でいっぱいの空間の刺繍には、「そろそろ、限界」。暗闇に浮かぶ蜘蛛の巣と蝶の刺繍には、「暗闇の中で生きたい」。「全身が傷口」と添えられた作品は、身体にも赤の包帯を纏っています。

本谷の言葉は、「仲間を探してる」「足りないし、埋まらない」「好きな人も嫌いな人もいない」「私以外はみんな偽物」「夢ってどこに落ちてんの?」「宇宙でひとりぼっち」「同じ血を流したい」と続きます。

浮かんでくるのは、カラフルで奇抜なファッションを纏いながら、心の中には孤独を抱え、未来を探してさまよう若者の姿。さまざまな思いは胸にしまい、ファッションで自分を大きく見せている若者たちを、清川は「いとおしいと思った」といいます。90年代の写真を使用してはいますが、時を超えて、若者と呼ばれる存在の心情そのものを表現しているのかもしれません。

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会場の中央には、レースで作られた心臓のオブジェ。心臓に向かって、黒の迷路が続いているような展示空間に、TOKYOモンスターがさまよっています。

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パルコミュージアム

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東京都庭園美術館リニューアルオープン

東京都庭園美術館として使用されている建物は、1933年に朝香宮家の本邸として建てられました。当時、世界的に流行していたアール・デコ様式を取り入れ、主要な部屋の内装は、フランスのデザイナー、アンリ・ラパン(1873~1939)が手掛け、フランスの室内装飾が据えられています。宮内省内にあった建築のエキスパート集団、宮内省内匠寮との日仏合作による建築物です。

 3年に及ぶ修復を終え、リニューアルオープン記念展として「アーキテクツ/1933/Shirokane アール・デコ建築をみる」と「内藤礼 信の感情」が開催されています。
<会期:2014年11月22日(土)~12月25日(木)>

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正面玄関には、ルネ・ラリックのガラスレリーフ。そして、大広間の天井には、格子で区切った中に40個の半円球の照明が配置され、重厚な空間となっています。モザイクの床に白磁の香水塔、朱色の壁が華やぎを添える次室。香水塔には、水の流れる仕組みが施されていたそうです。

大客室は、花をモチーフとした装飾で彩られ、ルネ・ラリックのシャンデリアや、扉のエッチング・ガラスがあでやかです。円形を描く張り出し窓から緑と光があふれる大食堂は、明るく開放感のある空間。ルネ・ラリックの照明やガラス扉には、くだものモチーフがあしらわれています。

2階には、居間や寝室があり、各部屋の照明はそれぞれ異なるしつらえとなっています。若宮の居間はステンドグラスによるペンダント照明で若々しく、妃殿下の寝室はドレープのあるシェード付照明で女性らしく、妃殿下の居間は5つのボールを組み合わせたボリュームのある演出が。

書斎は、四隅に飾り棚を設置することで室内を円形に仕上げ、机の曲線とマッチした空間に。浴室には、バスタブが据えられ、80年前とは思えない近代的な設備が整っています。

そして、注意深く鑑賞すると、マントルピースの上や鏡の前、床の上などに、小さな小さな白木の人形がさり気なく置かれています。内藤礼(1961~)の彫刻作品「ひと」(2014)です。まるで時を超えて、建築当時からずっとそこに佇んで、歴史をながめていたかのよう。私たちの住む部屋の片隅にも実は静かに佇んで、見守ってくれているような気持ちにもなりました。

今回のリニューアルでは新館が建設され、新館でも内藤礼の作品を見ることができます。色彩はごくわずかで、じっと目を凝らし、自己と向き合うように鑑賞するペインティング。気持ちもリニューアルして、帰路につけるかもしれません。

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東京都庭園美術館

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心が豊かになるアートを見つけに飛び立つ青い鳥です。

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