ボッティチェリ展

ヨーロッパでは中世後期から、聖母マリアと幼子イエスを描いた作品が好まれ、ルネサンス期のマリアは、威厳に満ちた聖母ではなく、魅力的なひとりの女性として描かれるようになったといいます。ボッティチェリ(1444/45~1510)の描く、金髪で面長のマリアは、まさに愛に満ちてやさしく、理想の女性美が投影されているかのよう。

日伊国交樹立150周年を記念して、聖母子像を含むボッティチェリの作品20点以上が、東京都美術館に集いました。
<会期:2016年1月16日(土)~4月3日(日)>

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メインビジュアル「聖母子(書物の聖母)」(1482~83)は、円熟期の傑作といわれるにふさわしく、流麗な線で緻密に描かれた優美さ漂う作品。家庭の日常の一コマのような室内には、憂いを含んだ表情のマリアと、その膝に抱かれてマリアを仰ぎ見るイエス。イエスが手にする茨の冠と3本の釘は、イエスの受難を暗示しているのだそう。この受難具や、聖母子の光輪、聖母の衣服の刺繍には金箔が使用され、フェルメールも魅了されたラピスラズリを用いたブルーがあざやかです。

さかのぼって、自分の工房を構える前に描かれ、初期の名品とされるのが、「バラ園の聖母」(1468~69頃)。バラの花と木々を背景に、少し首をかしげたマリアと、その膝の上のイエス。どちらの手も、復活の象徴であるざくろの実に触れています。丸みをおびた立体感のある人物像には、「聖母子(書物の聖母)」ほどの情感は感じられませんが、慈愛に満ちた素朴な印象。

また、ボッティチェリは、彼を庇護したメディチ家がフィレンツェから追放(1494)された後は、贅沢を禁じ宗教の腐敗を戒めた修道士サヴォナローラに傾倒。傾倒後に制作された「聖母子と洗礼者聖ヨハネ」(1500~05)には、深く腰を折り、イエスの身体をヨハネに預けようとするマリアが描かれています。ヨハネの持つ十字架から、イエスの十字架降下を暗示しているといいますが、沈鬱でおごそかな雰囲気であり、以前の優美な華やかさはもう感じられません。

フィレンツェの激動の歴史に深くかかわり、画風を大きく変えたボッティチェリ。師であったフィリッポ・リッピ(1406~1469)や、その子フィリッピーノ・リッピ(1457~1504)の作品も多数展示され、見ごたえのある展覧会です。

展覧会のホームページはこちらから
東京都美術館

テーマ:美術館・博物館 展示めぐり。 - ジャンル:学問・文化・芸術

フェルメールとレンブラント 17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち展

1602年、オランダ東インド会社の設立により、17世紀のオランダは黄金時代を迎えたといわれています。絵画も発展し、一般家庭にも多くの絵が飾られていたとか。当時、活躍した画家たちの中には、日本でファンの多いフェルメール(1632~1675)やレンブラント(1606~1669)も含まれています。日本初公開となるフェルメール「水差しを持つ女」(1662頃)、レンブラント「ベローナ」(1633)をはじめとする、17世紀オランダ絵画60点を森アーツセンターギャラリーで見ることができます。
<会期:2016年1月14日(木)~3月31日(木)>

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会場では、風景画、建築画、静物画、風俗画など、ジャンルごとに紹介されています。建築画とは聞きなれないジャンルですが、教会建築内部を描いた絵のこと。ピーテル・サーンレダム(1597~1665)「聖ラウレンス教会礼拝堂」(1635)は、大きなアーチのある奥行きのある空間が描かれ、小さな人物との対比で、建築物の荘厳さが際立っています。

当時の「静物画」は、実物そっくりに描くことが優先されたとのことで、テーブルの上におかれたガラスや金属の器が光を映す様、さくらんぼの実のつややかさ、ぶどうの皮の白く曇った感じなど、実物と見まがうほど。

「風俗画」では、庭園での宴、りんごの皮を剥く女性、鮮やかな色の衣服を着てニシンを売る若い女性、糸を紡ぐ女性、手紙を書く女性など、庶民の何気ない日常生活を垣間見ることができます。そして、フェルメールの「水差しを持つ女」。やわらかな光に包まれた、静かで清廉な画面は、他の画家の作品と一線を画します。窓を開けて光を取り入れながら、純潔の象徴である水差しを持つ女性。頭を覆う白い布越しに差す、繊細な光の表情。フェルメール・ブルーと呼ばれる青と白の清潔な対比。どこまでも魅了される1枚です。

フェルメールのやわらかな光に対し、レンブラントは、光と影を用いた劇的な光。「ベローナ」は戦いの女神が描かれ、鎧や金の質感が見事です。表情は、あまり凛々しくありませんが…。

貿易により裕福な国となった、17世紀のオランダ文化に触れるチャンスです。

展覧会のホームページはこちらから
森アーツセンターギャラリー

テーマ:美術館・博物館 展示めぐり。 - ジャンル:学問・文化・芸術

英国の夢 ラファエル前派展

イギリスで、ラファエル前派というグループが結成されたのは1848年。古代や中世へ回帰しようとする彼らの作品は、生の感情を宿した女性像と、幻想的で物語性のある世界観が特長で、何よりも夢見るように美しく、見るものの心をとらえて離しません。リバプールの3つの国立美術館から選りすぐった65点が展示されたBunkamuraザ・ミュージアムで、優雅な女性美の世界に浸れます。
<会期:2015年12月22日(火)~2016年3月6日(日)>

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ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829~96)「春(林檎の花咲く頃)」(1859)は、花咲く木々の下、8人の美女たちが集っています。長くつややかな髪と、白く美しい肌。繊細な筆致で表現された、まばゆい春のひととき。ところが、寝そべった右端の女性の上には、大きな鎌が…。美しい画面の中に、人物の将来の幸福や不幸が暗示されているといいます。

ロセッティ(1828~82)「シビラ・パルミフェラ」(1865~70)も、「魂の美」の象徴として描かれた美女。左には、目隠しされたクピドと薔薇。右には、頭蓋骨とポピーが。愛と死のモチーフがいわくありげです。

アルバート・ジョゼフ・ムーア(1841~93)「夏の夜」(1890)も、美しいものだけで構成された夢幻の世界。ゴールドの布で覆われたベンチには、古代風のローブをまとった半裸の美女が4人。腰掛けて髪を結ぶ者、手を頭の後ろで組む者、身を横たえて眠る者…。1人の美女の連続的な動作を記録したのだとも。天井には花を長く編んだ飾り、テラスの向こうは夜の海。

高さ3mを超える大作が、バーン=ジョーンズ(1860~98)「スポンサ・デ・リバノ(レバノンの花嫁)」(1891)。純潔の象徴である白ユリの咲く小径を歩く花嫁。後ろには、風に煽られ渦巻く衣をまとった女性が2人。北風と南風が擬人化されているとのこと。花嫁があまり幸福そうに見えないのは、南風が吹いて幸せな日もあるが、北風が吹くつらい日もある、ということなのでしょうか。

展示作品を所蔵するのは、リバプール国立美術館。リバプールといえばビートルズですが、当時のリバプールは、造船業や工業製品の輸出で栄え、イギリス随一の港町でした。この町の企業家たちが新進気鋭のラファエロ前派作品を購入したおかげで、国立美術館のコレクションが形成されています。アートに投資するのは、大切なことですね。

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ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢

展覧会のホームページはこちらから
Bunkamuraザ・ミュージアム

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