鬼才の画人 谷中安規展

谷中安規(1897~1946)の作品をはじめて見たのは、神奈川県立近代美術館の「光の現れ」をテーマとした展覧会。その幻想的な木版画は強く心に残りました。谷中が活躍した1930年代の東京は、関東大震災から復興したモダン都市の側面と、戦時体制へと傾斜していく閉塞感のある側面が相半ばしていました。「風船画伯」と呼ばれ、何ものにも頓着せず、風来坊のように東京を漂い歩きながら、版画に没頭した谷中。夢とも現実ともつかない独創的な作品約300点を、町田市立国際版画美術館で見ることができます。
<会期:2014年10月4日(土)~11月24日(月)>

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1920年代、谷中は、エロティックでグロテスクな自らの作品を「腐ったはらわた」と呼んでいたといいます。「妄想F」(1925頃)は、奇怪な化け物の長い舌の上を、傘をさした裸の女性が化け物に向かって歩いています。太陽と星が同時に描かれ、昼でも夜でもない世界。当時の谷中は、既成概念を否定するダダや、アナーキズム、イギリスの怪奇小説ブラック・ロマンスに共感していたとか。

「飛ぶ首」(1927)は、ビルの谷間で本を読む裸婦と、首の飛んだロボットという構成。ビルの間から覗く海には軍艦が見えます。当時、ロボットブームがあったそう。

「蝶を吐く人」(1933)は、室内の蝶の影が、黒い蝶となって窓からビル街に飛び立っていきます。2人の裸婦と裸婦を描く男性が描かれた、「うすむらさき」(1933)の窓の外には飛行船が。モダン都市東京の空間と、飛行船などの機械文明が合わさった“都市の怪奇”に、メルヘンが入り交じり、なんとも幻想的。顔や頭が仏像のようで、手には弓矢を持った「赤い人魚」(1932)の人魚を見ると、昔話や仏典の影響も。

そして、幼少期の記憶もイメージの源泉に。「少年画集」(1932)は、8点1組の手刷り木版画集。小学生時代を過ごした新潟県柏崎市の記憶だといわれています。祭り、桜、見世物、運動会、公園、水遊び、盆おどりなど、懐かしい日本の風景に詩情が漂う、影絵のような作品です。

1935年以降の谷中は、海上に横たわる裸婦と天使や、象や馬に乗る裸の子ども、花が咲き蝶が舞う草原を自転車で駆け抜ける裸の男性など、おとぎ話や桃源郷のような世界を描くようになります。戦時体制の現実社会には、もはやモダン都市の面影はなく、モティーフにはなり得なかったのでしょうか。

やがて終戦を迎え、創作意欲に燃えていたという谷中ですが、終戦の翌年、栄養失調のため死去してしまいます。戦後の東京を漂い歩いたとしたら、どんな作品世界が生まれていたのでしょうか。

展覧会のホームページはこちらから
町田市立国際版画美術館

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テーマ:美術館・博物館 展示めぐり。 - ジャンル:学問・文化・芸術

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