ティツィアーノとヴェネツィア派展

ルネサンス期のイタリアにおいて、素描を重視したラファエロ(1483~1520)、ミケランジェロ(1475~1564)などフィレンツェの画家たちに対し、ティツィアーノ(1488/90~1576)を筆頭としたヴェネツィアの画家たちは、色を重視したといわれます。水の都ヴェネツィアで描かれた、豊かな色彩と光の表現にあふれた作品群を、東京都美術館で見ることができます。
<会期:2017年1月21日(土)~4月2日(日)>

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海に囲まれたヴェネツィアは湿度が高いため、早く乾くテンペラ画が主流でしたが、ぼかしや重ね塗りには向きませんでした。カンヴァスに油絵具で描くスタイルを取り入れたことで、光と色彩の表現を進化させることができたのだとか。輝くような色彩の表現は、女性像にも生かされています。ルノワールが敬愛したというティツィアーノの初期の代表作「フローラ」(1515頃)はどうでしょう。

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輝く金髪と白くふくよかな肌。右手にバラやジャスミンの花を持っていることから、花の女神フローラとされています。薬指に指輪をはめていることから、花嫁とも。バラ色のマントを纏い、白の肌着で片方の胸は覆われているものの、片胸はあらわ。貞淑さと奔放さが入り混じっているようにも感じられますね。

50代のティツィアーノが描いた「ダナエ」(1544-46)も肌の美しさが際立つ作品。裸で横たわる女性がうっとりとみつめているのは、黄金の雨。幽閉された王女ダナエの美しさに惹かれた神々の王ユピテルが、黄金の雨に姿を変えて彼女に降り注ぎ、交わっているのだそう。黄金の雨には金貨も混じっており、まるで、その代償として金貨を与えているようにも見えます。

ティツィアーノのパトロンたちは、より美しく官能的な絵画を彼に要望したといいますから、神話を利用して、それに応えたものだったのでしょう。クラーナハの描く裸婦もアクセサリーを身につけていましたが、ダナエもイヤリング、指輪、ブレスレットをしています。

ユピテルは白鳥にも姿を変え、王妃レダを誘惑します。その場面を描いたのが、ティツィアーノより次世代のティントレット(1519~94)の「レダと白鳥」(1551-55)。レダを画面の対角線上に描く大胆な構図と、背景の布の質感が見事です。誘惑されているというより、白鳥を愛玩しているようなレダも新鮮。

昨年、国立新美術館で開かれた「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」に続いて、ヴェネツィア派が堪能できます。

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東京都美術館

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オルセーのナビ派展

19世紀末のパリ。ヘブライ語で預言者を意味する「ナビ派」と称した、若き芸術家のグループがありました。新しい絵画を模索した、ボナール(1867~1947)、ドニ(1870~1943)、ヴュイヤール(1868~1940)などの画家たちです。オルセー美術館のナビ派コレクションから約80点を集め、ナビ派の芸術を日本で初めて本格的に紹介する展覧会が、三菱一号館美術館で開かれています。
<会期:2017年2月4日(土)~5月21日(日)>

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折りしもジャポニスムの時代。「日本かぶれのナビ」と呼ばれたのがボナールです。「庭の女性たち」(1890~91)は、掛軸を思わせる、縦長の細長い画面に描かれた4枚の連作。屏風として制作されたといいます。引き伸ばされたしなやかな肢体の女性たちが、庭で思い思いに過ごしています。赤に白の水玉のワンピースの女性は犬と戯れ、やわらかなピンクの服の女性は猫と座る。パープルのケープの女性は紅葉の中に佇み、格子柄の服の女性は白の帽子をかぶって。それぞれの色調が美しく、服の模様と背景の植物模様がマッチして、なんとも華やかで装飾的。平面的な画面は、浮世絵の影響を受けているとか。

同じく、縦型の大型の連作で目を奪われてしまうのが、ヴュイヤール「公園」(1894)。とある私邸の応接間兼食堂の装飾画として制作された9枚1組の作品で、オルセー美術館が所蔵する5枚を見ることができます。横に並べるとパノラマ写真のように連続した画面には、公園の中の日常の情景が描かれています。今にも駆け出しそうな子どもたち。子どもの問いかけを腰をかがめて聞く母親。腰掛けて語らう3人の女性。赤の日傘をさして一休みする女性。あたたかで親密な情景ながら、地をはうような影の描写に不穏な雰囲気も。マットな質感は膠を使用して描かれているからだそうです。

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ドニの「ミューズたち」(1893)には、木々の間に集う女神たちが描かれていますが、同時代の衣服をまとい、現代女性の姿をしています。神秘的な色調で表現された、目に見えない世界。

親密な日常性、室内で楽しみたい装飾性、目に見えない精神や祈りをも描こうとした神秘性。一筋縄ではいかないナビ派芸術に触れることのできるチャンスです。
※写真は、主催者の許可を得て撮影しています。

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三菱一号館美術館

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日本画の教科書 京都編

開館50周年を迎えた山種美術館の記念特別展として、京都画壇を代表する名品が勢ぞろいしています。竹内栖鳳(1864~1942)、上村松園(1875~1949)、福田平八郎(1892~1974)など、「日本画の教科書」というタイトルにふさわしいラインアップ。特に、山種美術館の代名詞でもある竹内栖鳳「班猫」(1924)は、このような機会がないとなかなか目にすることができません。
<会期:2016年12月10日(土)~2017年2月5日(日)>

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「班猫」は、会場を入ってすぐの場所に展示されています。「動物を描かせてはその臭いまで描く」といわれた栖鳳ですが、描きたい動物がいれば、自宅に持ち込んで写生し続けたといいます。この猫も、沼津の八百屋の店先で一目ぼれし、譲り受けて京都に連れ帰ったとか。何もない背景にただ1匹描かれた猫は、どこか気品ある佇まい。やわらかな毛並みと、ふと振り返ったときの丸みのある独特のポーズ。栖鳳が入れ込んだ気持ちがわかるような気がします。

栖鳳の門下であった土田麦僊(1887~1936)「大原女」(1915)も目を惹く大作。頭に荷をのせて売り歩く京都の大原女。胡粉を盛り上げて花びらを描いた桜の大木と、すがすがしい緑の竹林。土色と緑の中を歩く藍の着物を着た3人の大原女が、のどかでのびやかな雰囲気。

上村松園の美人画も見逃せません。「牡丹雪」(1944)は、画面の大部分がどんよりとした空。降る雪が胡粉で描かれています。うつむき加減で歩く二人の女性の傘は雪で覆われ、その重さが伝わってきます。寒さの中で、女性の美しさが際立ちます。会場では、この作品のみ撮影可能です。

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松園の夏の美人は「新蛍」(1929)。グリーンの簾ごしに、蛍に目をやる女性。少し上げた簾が、女性の立ち姿に沿って垂れ、たおやかな曲線を描いています。

福田平八郎「筍」(1947)は、黒々とした皮に覆われた筍が2本、空に向かって伸びています。その生命力を絵画で表現したかったとは福田の弁。淋しいので添えたという竹の落ち葉は、薄墨の線で描かれ、グラフィカルな魅力にあふれています。

次回展の東京編では、どんな名品に出会えるでしょうか。楽しみですね。

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山種美術館

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小田野直武と秋田蘭画

1774年、ドイツ人医師クルムス原著のオランダ医学書「ターヘル・アナトミア」を杉田玄白らが訳し、「解体新書」として刊行しました。その挿絵を描くことに抜擢されたのが、当時25才、秋田藩の小田野直武(1749~1780)。原書の銅版画を小田野が写しとり、その下絵に基づいて木版で刷られたといいます。

徳川吉宗が洋書の輸入を緩和したことから、ヨーロッパの学術・文化を研究する蘭学が盛んになっていた江戸時代半ば。江戸に上り、蘭学者とも交流した小田野は、「秋田藩氏が中心に描いた阿蘭陀風の絵画」=「秋田蘭画」の中心的な描き手でもありました。この「秋田蘭画」を特集する展覧会が、サントリー美術館で開催されています。
<会期:2016年11月16日(水)~2017年1月9日(月)>

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メインビジュアルは、小田野が描いた重要文化財「不忍池図」(18世紀)。不忍池の淵にぽつんと置かれた二つの鉢植え。この状況からしてミステリアスですが、はっきり描かれた近景の花と、遠く煙るように描かれた背景との対比や、うすく塗られた空と池のブルーが、静かで時間がとまったかのような不思議な雰囲気を醸し出しています。

手前の鉢には、赤と白の芍薬。奥の鉢には、キンセンカと青の薬用サルビア。季節の違う花が描かれているため、四季を描いたのではないかともいわれているそう。近景の花はリアルで、芍薬のつぼみと茎には、3匹の蟻まで描写されています。

近景を拡大し奥行きのある遠景を描く構図は、秋田蘭画の特長とのことで、小田野の「蓮図」(18世紀)や、秋田藩主であった佐竹曙山(1748~1785)「松に唐鳥図」(18世紀)にも見ることができます。

もともと、小田野が江戸に上ったのは、平賀源内(1728~1779)が秋田を訪れた際、小田野の画才を見出したことがきっかけともいわれ、源内は小田野に遠近法や陰影法など西洋絵画の技法を教えたとされています。その源内は、人を殺めたとして獄死。小田野も1779年、突然謹慎を命じられ、翌年32才で死去。主要人物が相次いで世を去ったことで、秋田蘭画が注目されるのは20世紀以降になってしまったとか。

どこかシュールな雰囲気が漂う秋田蘭画の魅力を堪能するチャンスです。

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サントリー美術館

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クラーナハ展 500年後の誘惑

冷めたまなざしと白い肌。小ぶりな乳房と少女のようにも見える肢体。クラーナハ(1472~1553)が描いた女性像は、ボッティチェリ(1445~1510)やラファエロ(1483~1520)といったイタリア・ルネサンスの画家たちのふくよかな女性像に比べると、どこか不健康で妖しい雰囲気をまとっています。ドイツ・ルネサンスを代表する画家、クラーナハ。特異のエロティシズムと評される一癖ある作品群が、国立西洋美術館に集結しています。
<会期:2016年10月15日(土)~2017年1月15日(日)>

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1505年、ザクセン選帝侯の宮廷画家となったクラーナハ。大規模な工房を構え、絵画の大量生産を行なったといいます。薬の販売や印刷事業など実業家としても活躍し、市長にも選出。マルティン・ルターの盟友として、宗教改革にも貢献しました。

実業家として成功を収めたクラーナハが、一方で、妖しい魅力を放つ女性像を描きまくっていたとは…。暗闇の中に裸体の全身像として浮かび上がる「ヴィーナス」(1532)は、少し腹部を突き出したようなS字型の華奢なボディライン。完全な裸体ではなく、首には豪華なチョーカーとネックレス、髪全体をネットのような髪飾りで覆っています。細長いベールを手にしてはいますが、あまりにも透明なため、素肌ははっきりと透けて見えます。うっすらと微笑みを浮かべ、自分が見られていることを、また、見られている裸身が魅力的であることを、十分に意識しているかのよう。

 「正義の寓意(ユスティティア)」(1537)も、天秤と剣を手にした女性は、髪飾りと首飾りのみを身に付け、透明なベールに包まれていながら、包まれていないように透けて見える裸身が、なんとも魅惑的。

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メインビジュアルになっているのは「ホロフェルネスの首を持つユディト」(1530頃)。自らがとった将軍の生首を手にするユディトは、無表情に落ち着き払い、うっすらとした笑みまで浮かべています。生首のグロテスクさを凌駕する圧倒的なユディトの美しさは、将軍を誘惑した「女のちから」そのもの。

「女のちから」に骨抜きにされてしまった男性として、糸紡ぎをさせられるヘラクレスや、デリラに髪の毛を剃り落とされてしまうサムソンも描かれています。宗教改革から500年を数える本年に開催されたクラーナハ展。500年後の誘惑に惑わされてみませんか。

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国立西洋美術館

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心が豊かになるアートを見つけに飛び立つ青い鳥です。

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