マティスとルオー展

20世紀最大の宗教画家と呼ばれるルオー(1871~1958)と、色彩の魔術師と呼ばれるマティス(1869~1954)。それぞれに個性を際立たせるふたりの画家は、パリの国立美術学校でともに学んでいました。指導にあたったのは、聖書や神話を題材とした幻想的な作風のギュスターヴ・モロー(1826~1898)。ふたりの個性を巧みに引き出したといいます。

卒業後もマティスとルオーは、1906年からマティスが亡くなる前年の1953年まで、手紙のやり取りをしていました。展覧会への出品についてや、お互いの健康を気遣うなど、内容はさまざま。ふたりの手紙を紹介しながら、その時期の作品を年代に沿って鑑賞できる展覧会が、パナソニック汐留ミュージアムで開催されています。
<会期:2017年1月14日(土)~3月26日(日)>

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1890年代の初期作品から年代を追って、ふたりの絵画スタイルの変遷を見ることができるのは、みどころのひとつです。マティスの作風が明るく変化するのは、ニースに滞在したという1920年ごろ。海の見える窓辺に立つ女性を描いた「窓辺の女」(1920)には、やわらかな光が満ちています。「肘掛椅子の裸婦」(1920)にも、ストライプのテーブルクロスや花模様の絨毯に、マティスならではの装飾的な趣が感じられます。そして、色を切り取り、リズミカルに配置した「ジャズ」(1947)へ。

一方、ルオーは14歳のとき、ステンドグラス職人の見習いをしており、独自の黒い輪郭線は教会のステンドグラスから発想したのだとか。詩画集「気晴らし」の原画(1943)のさまざまな人物像はどれも味わい深く、15点そろっての展示は世界初とのこと。もちろん、キリストの顔を画面いっぱいに描いた「聖顔」(1939)など宗教的な題材も。

ナチスによるパリ占領期に、ギリシア出身の出版人テリアード(1897~1983)が発行した芸術誌「ヴェルヴ」(1937~1960)関連の展示も充実しています。世界一美しいと称えられた「ヴェルヴ」は、フランス美術をちりばめることで、ナチスへの抵抗を表明したそうです。創刊号の表紙はマティス作で、ルオーも表紙画を描いています。マティス「ラ・フランス」(1939)には、赤のドレスをまとった堂々とした女性像が鮮やかな色彩で描かれ、フランスの誇りが感じられます。本作を掲載した「ヴェルヴ」本誌も展示されています。

第二次世界大戦をはさむ激動の時代を生きた、ふたりの画家。ナチスに家族を捕えられ困窮していたルオーに、マティスが絵具を溶く油を送ったというエピソードもあり、時代と芸術についても考えさせられます。東京での会期はあとわずかですが、あべのハルカス美術館に巡回予定です(2017年4月4日~5月28日)。

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パナソニック汐留ミュージアム

テーマ:美術館・博物館 展示めぐり。 - ジャンル:学問・文化・芸術

N・S・ハルシャ展 -チャーミングな旅-

力強い色彩で水玉や網目が無限に増殖する草間彌生(1929~)の世界に対し、インド現代美術界で活躍するN・S・ハルシャ(1969~)は、やわらかな色彩でモチーフを反復して描きます。画面いっぱいにたくさんの人を描いても、同じ人は二人といません。表情、しぐさ、衣服など全て異なる人々が、世界の縮図のように描かれます。

故郷である南インドのマイスールを拠点に、人物や動物、宇宙などのモチーフをユーモラスに、またシニカルに反復して描く、N・S・ハルシャの大規模個展が森美術館で開催されています。
<会期:2017年2月4日(土)~6月11日(日)>

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表現スタイルを確立する契機となった作品は、「私たちは来て、私たちは食べ、そして私たちは眠る」(1999-2001)と題した3点組の絵画。
無数の人々がどこからか、川を渡ってやって来ます。
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人間の根源的な活動である、食べることと眠ること。眠ることは、宇宙と一体になる儀式だといいます。
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「ここに演説をしに来て」(2008)は、6枚のキャンバスに2000人以上の人が描かれています。よく見ると、フリーダ・カーロ、考える人、宇宙服を着た人、鳥人間やゾウ人間なども。
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「ピーチクパーチク」(2014)では、鳥人間が望遠鏡と顕微鏡をのぞいています。宇宙の星など、どこまでも遠くを見る望遠鏡と、細胞などどこまでも細部を探求する顕微鏡。哲学的な世界観なのかもしれません。
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「ふたたび生まれ、ふたたび死ぬ」(2013)は、全長24mを超える、大きな一筆書きのような絵画。黒の曲線の中には、宇宙の星がびっしりと描かれています。連続した宇宙空間のようにも、輪廻転生のようにも。
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インスタレーション「空を見つめる人びと」(2010)は、空を見つめる人々が床に描かれ、天井の鏡に映っています。中に立って、上を見上げると、鏡に映った人々といっしょに空を見つめているように感じられます。下の写真は天井の鏡に映った人々です。
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インドの歴史、文化、そして宇宙へのチャーミングな旅。見れば見るほど発見のある旅にいらっしゃいませんか。

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森美術館

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田沼武能肖像写真展 時代を刻んだ貌

写真家田沼武能(1929~)は、東京・浅草生まれ。小学3年の時に中国と戦争が始まり、中学2年になると軍需工場に駆り出され、教室での勉強など無きに等しかったといいます。私の青春は、戦争と敗戦の混乱で埋まっているとも。

サンニュース社に入社した田沼が「藝術新潮」の嘱託として、日本画の巨匠横山大観の撮影をすることになったのは、21歳のとき。以降、フリーランスになってからも、数えきれないほどの人物写真を撮り続けてきました。文士、芸術家、文化人等、65年以上も「貌」に魅せられてきた田沼にとって、1対1で対象と対峙し、話を聞くことのできる写真は、学ぶチャンスを与えてくれたきっかけ。「貌」には、その人の歴史、その人の心、内面までも写し撮ることができると考えているそうです。

そんな田沼がとらえたポートレート80点を、練馬区立美術館で見ることができます。
<会期:2017年2月23日(木)~4月9日(日)>

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はいつくばってバレンを動かす棟方志功(1953)、五線紙にペンを走らせる武満徹(1967)など、作品を生み出さんとする芸術家の姿。背広に着替えて待っていたという永井荷風(1953)、パレットを手にし、カメラにはにかんだような目を向ける熊谷守一(1954)など、やさしい表情。「オールドパー」が見える棚の前で、煙草「いこい」をくゆらせる吉田健一(1966)、書棚の前で知性が光る柳田國男(1956)など、個性的で「ならでは」の表情。

記憶にある人もない人も、昭和の文化をつくりあげてきた人間ならではの味わいを見せる写真群に、魅せられてみませんか。

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練馬区立美術館

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日本画の教科書 東京編

開館50周年記念特別展として、日本画の名品を惜しげもなく公開している山種美術館。創立者である山崎種二が、戦前戦後を通して同時代の画家たちを支援し交流しながら、コレクションを形成してきた山種美術館だからこその展示です。「日本画の教科書」と題することができるのも、その自信の表れといえるでしょう。さて、どんな名品に出会えるでしょうか。
<会期:2017年2月16日(木)~4月16日(日)>

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日本画の魅力といえば、花鳥風月など自然の風物が四季の彩りの中で描かれていること。東山魁夷(1908~1999)の四季は、「年暮る」(1968)、「春静」(1968)、「緑潤う」(1976)、「秋彩」(1986)。

昭和30年代後半、川端康成に「京都は今、描いといていただかないとなくなります」と言われた東山は、京都を描くようになったといいます。「年暮る」に描かれているのは、年の瀬の京都。低く連なる家々の屋根に、しんしんと雪が降り積もる情景です。人は描かれていませんが、家の中で新しい年の訪れを待ちわびていることでしょう。春は、洛北の山の青々とした杉を背景に、咲き誇る桜の花を描いた「春静」。緑と薄桃色の対比が美しく、山あいの静かな春を感じさせます。修学院離宮の庭園を描いた「緑潤う」は、池の青と樹木や苔の緑という、同系色の色合いがすがすがしい夏の景観。「秋彩」の小倉山は秋色に染まり、紅葉の朱や黄と、常緑樹の青紫が響きあう美しい作品。

荒木十畝(1872~1944)の「四季花鳥」(1917)は四季の4幅対。春は、画面一面に咲く椿と木蓮の下、散歩を楽しむような鳥たち。夏は、青の桐の花に囲まれて、見つめ合う2羽の鳥。秋は、鮮やかに色づく紅葉の幹のアカゲラ。そして冬は、雪の降り積もった梅が花を咲かせ、寒そうに身を寄せ合う5羽の雀。装飾性豊かで目を奪われる、大正期の作品です。

開花が待ち遠しい桜を描いた作品で印象に残るのは、橋本明治(1904~1991)「朝陽桜」(1970)。福島県三春町のしだれ桜を写生して生まれたそう。花びら1枚1枚が盛り上がったように描かれ、所々に金砂子がまかれています。金砂子で、朝陽に映える桜をイメージしたといいます。

花鳥風月以外の作品も充実しています。前田青邨(1885~1977)「大物浦」(1968)は、平家物語の一場面が描かれています。画面いっぱいに群青で力強く描かれた嵐の海。対角線上に、義経らが乗る船を配したダイナミックな構図。ここまでは荒々しいのに、よく見ると、船の中には一人ひとりの人物が細かく描きこまれ、見飽きません。青邨83歳の作。

東京画壇の名品がそろっています。

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山種美術館

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草間彌生 わが永遠の魂

「世界で最も影響力のある100人」(2016年・米タイム誌)に日本人で唯一選ばれた草間彌生(1929~)は、日本が誇る不世出のアーティストといってもよいでしょう。1957年に渡米し、作品だけでなく、「ハプニング」と呼ばれるパフォーマンスでも話題に。帰国後も、ロンドンのテート・モダンやパリのポンピドゥ・センターでの個展を成功させ、2012年のルイ・ヴィトンとのコラボレーションでは、ニューヨーク5番街にあるルイ・ヴィトンビルのショーウィンドウにものすごい人垣ができたそうです。

そんな草間の初期作品から最新作までが、国立新美術館に集結しています。
<会期:2017年2月22日(水)~5月22日(月)>

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巨大な空間に足を踏み入れると、壁が色とりどりの大作絵画で埋め尽くされています。草間が2009年より描き続けている「わが永遠の魂」と題する連作です。

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1辺が2m近い正方形のカンヴァスには、眼や横顔といったモチーフや、うねる線、さまざまなかたちの色面が描かれ、色鮮やかにメッセージを伝えます。単色を下塗りしたカンヴァスに、アクリル絵具で下書きなしで描いていくのだとか。作品数は500点に及び、本展では約130点が日本初公開となっています。イメージされているのは、宇宙、生と死、そして愛など。少女時代から幻覚や幻聴に悩まされていたといいますから、鮮やかな色合いで表現されてはいるものの、すべてがHAPPYなメッセージではないのかもしれません。ですが、圧倒的な存在感で迫る作品群が、心を満たし、リセットし、何か新しい力を与えてくれるように感じられます。

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1950年代の暗い色合いの油彩は、絶望感が漂うよう。ニューヨーク時代に生まれた、突起物を貼り付けた椅子や梯子は、なぞの生命体を思わせます。そして、「死の海を行く」(1981)と題された、突起物に覆われたボート。「最後の晩餐」(1981)は、赤、緑、黒などを地にした水玉の布の突起物で作られたテーブルと椅子のセット。テーブルの上には、ポットや果物かごが置かれています。展示のラストは、草間の代名詞ともなった「かぼちゃ」(1999)です。

「芸術と制作に命がけで戦っている」という草間は、「死ぬまで戦い続けたい」とも。創造の意欲と芸術への希望に溢れた草間の魂に、心地よく圧倒されます。

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国立新美術館

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心が豊かになるアートを見つけに飛び立つ青い鳥です。

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